「ダメですよ。　二、三日検査入院してくださいとの診断です」

起き上がり帰ろうとする唐巣に驚いた魔鈴は、慌てて唐巣を止めていた


「いや……　仕事があるし、私には病院にかかるお金が……」

慌てた様子の魔鈴を、唐巣はやんわりとなだめて帰ろうとする

食事にも困る唐巣が病院の治療費を払えるはずがなかった


「今回は私が立て替えておきましたから、入院してください。　体を壊したらそれこそ大変ですから」

帰ろうとする唐巣と止めようとする魔鈴の攻防は、その後しばらく続いていく

そして病院の先生に診断結果を聞きに行くピートと魔鈴達だが、唐巣が勝手に帰らないようにシロを見張りにつけるほどである


「過労に加え栄養失調気味ですし、体の抵抗力もだいぶ下がってます。　このまま行けば確実に寿命を縮めますよ」

病院の先生の診断は厳しいものだった

長年の無理が影響したのか、唐巣の体に蓄積された疲労などはピークに達している

これ以上今の生活を続ければ、確実に寿命を縮めるとキツイ言葉で念を押されてしまう


「唐巣先生……」

診断結果にショックを隠しきれないピートを前に、横島達はどうすればいいか考え込んでいた

唐巣ももう若くはないし当然の結果ではあるのだが、変に頑固な唐巣に生活や仕事を改めろと言っても聞かないため難しい


「とりあえず、しばらく入院させてください。　詳しい検査もしなくてはなりませんし……」

結局良案が浮かばない魔鈴は、しばらく入院させて体調を回復させる事に専念させるしかなかった

ピートに唐巣が帰らないように見張るように言って、一旦帰る横島達だが唐巣にどうやって自分を労る事をさせればいいのかわからない



「それは難しいわね」

帰宅後に魔鈴が相談したのは百合子だった

大まかな話を聞いた百合子だが、言葉少なく厳しい表情である

信念を持った人間に生き方を変えさせるのは簡単ではない

しかも他人の横島や魔鈴が何かを言って変わる程度なら、とっくに変わってるはずである


「ちょっと冷たいようだけど、他人が口出しするような問題じゃないとも言えるわ。　本人の命と人生だもの」

唐巣を心配する魔鈴に対して、百合子は少し突き放した言い方をしていた

魔鈴が優しいのは理解しているが、受け取る方にとっては余計なお世話に感じるかもしれない


唐巣を聞いた話でしか知らないため何とも言えない百合子だが、基本的に他人が口出しする範囲でないと感じていた


「それはそうかもしれませんが……」

百合子の言葉が図星だったのか、魔鈴の胸に突き刺さる

お節介なのは自分でも理解しているが、放っておけない性分なのだ


「貴女のそんな性格、私は嫌いじゃないわ。　そのくらいじゃなきゃ忠夫を救ってやれなかったんだろうしね」

どうすればいいか真剣に苦悩する魔鈴に、百合子は穏やかな笑みを浮かべていた

少しお節介なほど他人の事を心配して悩む魔鈴だからこそ、横島と結ばれる結果に繋がっている

横島が魔鈴に惹かれた理由も、その辺りの性格に関係があるだろうと百合子は思う


「方法は無くはないわ。　ちょっと強引で場合によっては嫌われるかもしれないけどね」

悩む魔鈴に百合子は意味深な笑顔を見せる