梅雨の終わり

次の早朝、妙神山の異界にある修行場には魔鈴と小竜姫の姿があった


「では霊力の解放から初めて下さい」

小竜姫に促されるままに中華服に似た修行服に着替えた魔鈴は、精神を集中して霊力を解放していく


さて何故二人が早朝からこんな事をしてるかと言えば、前日の夕食を準備していた時に魔鈴が小竜姫に頼んでいたのだ

独学で戦いに関して修行を続けていた魔鈴だが、元々専門外なためにイマイチ成果が見えない

この機会に小竜姫にアドバイスを貰おうと以前から考えていたようである


「次は霊力を集中して下さい」

修行になると表情が真剣そのものになる小竜姫は、無表情のままで次々に魔鈴に指示を出していく

そんな小竜姫に引きずられるように、魔鈴もまた真剣で少し緊張気味に指示に従って実力を見せていた

そのまま霊力に続き木刀を使った剣術や体術も見ていく小竜姫だが、その表情が緩む事は無い


「結論から言いますと、残念ながら戦いに関しては魔鈴さんには美神さんのような才能はありませんね」

はっきりと言い切る小竜姫の言葉に、魔鈴の表情がわずかに曇る

令子が一種の天才なのは魔鈴も十分わかっているのだが、それでも悔しさが込み上げてくる


「ただ美神さんを越える事が不可能かと言えば、そうではありません。 美神さんの強さの真髄は、戦う力と言うよりは戦い方にあります。 正直戦う力に関しては、才能を無駄にしてますしね」

魔鈴の僅かな表情の変化に小竜姫は気が付くが、構わずにそのまま話を続けていく

小竜姫自身はあまり才能と言う言葉は好きではないが、向き不向きがあるのも事実だった

令子の場合は強靭な精神力と手段を選ばない発想と戦い方は他に類を見ないほど優れているが、純粋な戦う力に関しては才能に甘えてる感が否めない

令子は元々修行などするタイプではないし、なまじ才能で出来てしまうために修行など必要無かったのだ

そう言った意味では戦う力に限定すれば、魔鈴が令子を越える事自体は不可能ではないと小竜姫は見ている


「そうですか……」

令子の強さの真髄が戦い方にあるのは魔鈴も理解しているが、それでも魔鈴は自分が令子とまともに戦えるようになるとは思えない

まあ別に魔鈴は令子と戦う事を考えてる訳ではないが、横島のパートナーとして最低限のサポートは出来る力は欲しいのだ


「魔鈴さんの場合、霊力に関しては私が思った以上に優秀です。 さすがに成長期は過ぎてるのでこれからの霊力値の上昇はあまり期待出来ませんが、体術や戦闘術の修行によっては十分強くなる事は可能でしょう」

さすがに霊力の成長期は過ぎている魔鈴だが、霊力以外は十分成長の余地はあった

まあかつての魔鈴が魔法に没頭するあまり、戦う事を全くと言っていいほど考え無かったから当然と言えば当然なのだが……


(今は無理ですが、いずれは自分のスタイルを身につける必要はあるでしょうね)

言われた事を考え込む魔鈴を見守りながらも、小竜姫は魔鈴の将来像をうっすらとだが考えていた

未熟な今はその段階ではないが、魔鈴はいずれ自分の才能や能力に合う戦い方を身につけなければならないだろう

それが何かは何となく見えているのだが、今の魔鈴に伝えるのはまだ早いと感じる


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