梅雨の終わり

さて話は戻って、タマモとシロと雪之丞とタイガーの四人はカードゲームの真っ最中だった


「三人ともダメね」

ゲームを変えて何度も勝負するが、やはりタマモの圧勝である

駆け引きが苦手な三人では、全く相手にならない


「って言うかズルしてないか?」

あまりに勝てない雪之丞は何か仕掛けがあるかと少し疑うが、考えすぎだった

タマモとしてもそこまで勝負にこだわってないが、三人が相手では勝ってしまうようだ


「おぬしらにはちょうどいい頭の修行じゃな。 実戦では駆け引きや常識に捕われない思考が何より必要じゃ。 その固い頭をなんとかせんと強くなれんぞ」

あまりにも勝負弱いと言うか駆け引きが出来ない三人に、半ば飽きれ気味の老師はテレビゲームをしながらアドバイスをする

タマモ達の方は見てないのだが、さすがに見なくてもわかるようだ


「ううぅ…… テレビゲームなんて青春じゃないわ」

一方老師の相手をしていた愛子も何のゲームをしても全く勝てなく、あまりに圧倒的に負ける為にへこみだしていた

老師は初心者が相手でもあまり手加減が少ないらしい



そのまま横島達の賑やかな時間は、あっという間に過ぎていく

そして時は夕方に差し掛かり、妙神山の台所の窓からは雲一つない綺麗な夕日が見えていた


「綺麗な夕日ですね……」

少し眩しそうに夕日を見つめる魔鈴は、何かを考えた訳でもないのに心が締め付けられるような気持ちになる


「彼女を直接知らない私達にとって、夕日は彼女を知る事が出来る数少ない手掛かりですからね」

魔鈴の表情や気持ちを小竜姫はすぐに察していた

まともに会った事もないルシオラを、二人が感じる事が出来る数少ないモノが夕日なのだ

二人とも夕日を見るたびに、ルシオラを想い複雑な気持ちになる


「私、最近怖いんです。 ルシオラさんを復活させると言いましたが、実際には復活の手掛かりさえ掴めない。 いつかそんな私に横島さんが愛想を尽かしてしまう日が来る気がして……」

それは魔鈴の心にある焦りや不安だった

横島とルシオラの決して変わらぬ愛を最も感じるがゆえに、いつか横島は自分の元を去るのではと魔鈴は心のどこかで密かに不安を抱えていたのである

いかに魔法の天才的才能がある魔鈴とはいえ、まだ20代の女性なのだ

もちろん横島を信じる気持ちは強く揺るぎないが、同時に心の隅に僅かな不安も抱えていた


「私が何か言わなくとも貴女はわかっているはずです。 横島さんは貴女から離れる事はありませんよ」

不安や焦りが見える魔鈴と対照的に、小竜姫は穏やかな笑顔を浮かべている

この世に絶対など有り得ないのは百も承知だが、当人の魔鈴よりも周りの者の方が見える事もあるのだ

横島と魔鈴が離れる事はない

それが小竜姫やタマモやシロなどの周りの者達の共通意見である

まあ魔鈴とて横島を疑っている訳ではないが、それを越えるほどにルシオラの復活への光が見えない恐怖や不安があるのだ


(まだ若いのですし、無理もありませんね)

小竜姫には魔鈴の若さゆえの未熟さが見えていた

横島の苦悩や運命を一人で支えて導こうとするあまり、魔鈴は無理をし過ぎている

魔鈴の優しさと真面目さが裏目に出てしまったのだ


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