梅雨の終わり

「こんちわ~」

鬼門に連れられた横島達は慣れた様子で妙神山の母屋に入って行くが、愛子やピート達は驚きや緊張気味なままだった


「もっと立派な場所に住んでるのかと思ったけど、なんか普通の民家ね」

神族と言うか神様のイメージがあった愛子は、ひと昔の日本家屋と同じ母屋に首を傾げている

神社や寺のような神聖なイメージがあっただけに、あまりに普通過ぎて驚いていた


「皆さん、ようこそいらっしゃいました」

そんな時、奥からエプロン姿の小竜姫が少し慌てたようにやって来る

横島達への料理を作っているらしく、横島達の場所にもいい匂いが届いていた


「小竜姫様! 相変わらず美しいっすね~ エプロン姿もたまんないっす!! 今日こそ禁断の恋をっ!!!」

小竜姫の姿を見るなり珍しく昔のように迫る横島だが、当の小竜姫は全く動かない


「あの……、小竜姫様?」

いつものノリで小竜姫に迫った横島だが、小竜姫が全く動かないため自分から止まっていた

横島としては、避けるなり神剣で止めるなりしてくれないと立場が無いのだ


「横島さん、本気にしますよ?」

ニッコリ微笑む小竜姫は、少ししてやったりと言った表情である


「小竜姫様酷いっす! 小竜姫様とだけの特別な挨拶なのに~」

まるでおもちゃを取り上げられた子供のように泣きまねをする横島に、その場に居るメンバーはクスクス笑ってしまう


「横島さん、ちょっと外でお話しましょうね」

「魔鈴さん?」

上手く笑いをとった横島を、魔鈴は何故か満面の笑顔で外に連れ出していく


「横島君って馬鹿よね~ 相変わらず女心には全くダメなのね」

冗談や挨拶と分かっていても彼女としては気持ちいいモノじゃない横島のおふざけに対し、愛子は思わず笑っていた

彼女の立場としてはあまり笑えないだろうと、魔鈴の気持ちを汲み取っている


「それだけじゃないのでしょう? タマモさん」

「そうね。 横島は挨拶でも、相手が本気になる事はあるわ。 自分の価値や魅力を全く知らない横島には、今のうちにアレは辞めさせないとね」

ただのヤキモチじゃないと直感的に感じた小竜姫の問い掛けに、タマモは魔鈴の行動の意味を説明していく

基本的に自分が人に好かれる事が有り得ないと思い込んでる横島だからこそ、あんな挨拶なんかができるのだ


自分は人に嫌われる事はあっても好かれない事が前提だから成り立つ訳だが、それを知らない人にやればどうなるかわからない

しかも相手が惚れても、横島には答える事は出来ないだろう

まあ実際あんな挨拶や行動で横島に惚れる女が居るかは不明だが、横島の魅力に気付く一因にはなる可能性があった

結果、その気がないのにあるように見せる横島の行動を問題視した魔鈴の教育だと言う事である


「う~ん、確かに横島君って影では人気あったのよね~ ナチュラルに女を落とすのは結構あったのかも……」

タマモの説明に納得した愛子は、腕を組み理解できるといった表情で頷く


「皆さんは少し休んでて下さい。 横島さん達はすぐに来るでしょう」

お説教中の横島を放置して、一同は母屋の居間でくつろぐのだった


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