白き狼と白き狐と横島

西条の器はたかが知れているし、地位や名誉を危ぶめてまで横島と戦う意思がないのを京子は見抜いていた

横島が絡まなければ表向きは善人のような行動をする西条だが、実は向上心の非常に高い男である

自分の経歴や地位に誇りとプライドを持っており、その中で生きている男なのだ

弁護士という第三者を挟んだ以上、横島と戦うにはそれ相応な覚悟がいる

しかし向上心が強く地位や名誉を望む西条にそんな勇気がないのも、長年の弁護士経験から悟っているようだった


「そんなもんすかね」

地位や名誉に興味が薄い横島にはあまり理解出来ない事だった

まあまともな社会経験がないと言えばそれまでかもしれないが、基本的に横島は地位や名誉に興味がない


「忠夫君は出世したいとか、人を使う人間になりたいとか思う事はないの?」

「あんまりないっすね~ 俺にはそんな事は無理ですし、器じゃないっすよ」

ふと尋ねた京子の問い掛けに、横島は冗談だと思ったらしく笑って答えた

これはアシュタロス戦以来の自己否定や人間不信も原因にあるが、元々横島は向上心の少ない人間である

やはり根本は百合子の教育の失敗が大きいのだろう


「そうかしら? 挑戦してみる価値はあると思うわよ。 少なくとも西条輝彦よりは向いてるわ」

いつになく真剣な様子で語りかける京子に、横島は少し困った表情を浮かべる


「興味ないんです。 俺には守りたい人達がいる。 それ以外はどうでもいいんすよ」

静かに目を閉じて語る横島の姿に、京子は何故か若かりし頃の百合子の姿がダブって見えた

性格や生き方などは正反対の横島と百合子だが、妙なこだわりがあるところは似ている気がする


(少しもったいない気がするわね。 表に出て生きれば成功すると思うんだけど……)

短い間だったが横島とその周辺に関わった京子は、ある事に気が付いていた

それは横島には百合子譲りの類い稀なき才能がある事である

よほど注意深くみないと気付かない程度だが、横島の言動や行動には常人では理解出来ないような光るモノが僅かに見えていた

百合子の非常識にも見える才能を良く知る京子なだけに、親子二代に渡って表に出ない事は少し残念だった


「まあ、いつかその気になったら連絡してちょうだい。 法律関連なら力になるわよ」

まだ10代の若い横島なだけに、京子はいつか横島が変わる事を期待してしまう

そんな京子に対し横島は、不思議そうな表情で苦笑いを浮かべるしか出来ない

普段なかなか素直に人に評価された事がない横島は、京子の言葉をどう受け取っていいかわからないようだった



「何もお構いせずにすいません。 よろしければまたいらして下さい」

帰り際に店の仕事で手が離せなかった魔鈴が見送りに来ると、京子は横島と魔鈴をニコニコとした笑顔で見つめる


「貴女次第よ。 忠夫君を生かすも殺すのも…… 頑張りなさい」

魔鈴の耳元で一言囁いた京子は笑顔のまま帰って行く


「魔鈴さん?」

何故か顔を赤らめる魔鈴を横島は不思議そうに見つめるが、魔鈴がその意味を語る事はなかった


(お義母さんの知り合いは変わった方が多いですね)

まるで全てを見抜いたような京子に魔鈴は感心と驚愕を感じていた


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