白き狼と白き狐と横島

「なっ…… 先生!?」

美智恵の冷めた表情と言葉に、西条はやり場のない怒りをどうしていいかわからない


「いい加減に横島君にこだわるの辞めたら? もう昔みたいに貴方と令子の邪魔をする訳でもないし……」

令子の事務所を辞めた横島に、西条がこれほどこだわるとは美智恵も予想外だった

まあ令子の心は未だに横島が居るために気に入らないのだろうが、見方によっては前世からの因縁に囚われているようにも見える

正直、美智恵はこれ以上横島に関わりたくない


「もし仮に横島君が再び世間の批判を受ける立場になっても、彼の周囲の人物は多分ほとんど変わらないわよ。 それにセクハラなんかで裁判にかけても未成年だし如月京子なら悪くて執行猶予で終わりね」

美智恵は西条の考える行く末を軽く予想していくが、正直どこまで横島にダメージがあるのかわからない

セクハラは世間の批判を浴びやすいが、地位や立場もない学生の痴漢などニュースにもならないのが現状である

それに西条は自分に自信とプライドがあるため自分は非難されると思ってないが、世間は誤認逮捕や銃の不正使用の方に興味を持つだろう

馬鹿な子供のセクハラよりも、権力を持つ西条の疑惑の方が面白いのだから


(相変わらず世の中をわかってないのよね。 誰かに批判されたこともないんでしょうね)

物事の判断基準が全て自分の正義や倫理なため、いささか世間からズレた価値観がある西条を美智恵は呆れた様子で見つめていた


「横島君に頭を下げろとおっしゃるのですか?」

横島を相手に頭を下げるような屈辱的なことをしたくないという表情でいっぱいの西条は、相手が美智恵でなければ話も聞かなかったかもしれない


「それは物の例えよ。 貴方も弁護士を雇って示談交渉しなさい。 わざわざ事前に通告して来たんだから、示談の意思はあるはずよ」

頭に血が上ってる為か察しが悪い西条に美智恵は呆れたまま、今後の対処を指南していく


「貴方は知らないでしょうけど、如月京子はかなりのやり手よ。 一昔前に有名だったもの。 妙な気を起こさないで示談で済ませなさい」

結局美智恵は、弁護士を雇って弁護士同士での解決を進めていた

今の西条では直接交渉など無理だと判断したようである


(手際の良さから見て、黒幕は両親かしら? そうだとしたら始めから詰んでる勝負でしょうね)

冷静さを欠けてる西条には言わなかったが、今回の件の裏に百合子や大樹が居ることを美智恵は確信している

だとすれば西条がどう出ようが、すでに結果の見えてる勝負だと感じていた


(横島君達に手を出せば、本気で全部世界にばらすつもりだって訳ね)

今回は西条の暴走で美智恵は関係ないのだが、相手から見れば一蓮托生なのは明らかである

何かあればすぐに世界に真相を知らせるという、脅しにも感じる意味がある事を美智恵は痛感していた


(西条君はもう少し教育が必要ね)

一方弁護士を通した示談に渋々従う様子の西条に、美智恵は頭を悩ませる

現実の厳しさや世界の複雑を本当の意味で理解してない西条には、本当に困っていた


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