卒業の意味

その為人間社会で静かに暮らす妖怪は珍しくない

ただ、基本的にそんな妖怪達を支援する人は少ないのだ

ましてGSをしている者が、妖怪を人間社会に馴染ませようとする者はほとんど居ない


唐巣は魔鈴がそこまでするのに内心少し驚いていた

タマモとシロが悪い子達でないのは良く知ってはいるが、元々魔鈴と関係も無いのだから


「私に出来ることがあれば、いつでも声をかけてくれたまえ」

そんな魔鈴の考えに共感を覚えた唐巣は、協力することを約束して少し離れた場所に座る


(横島君の事も気になっていたが、思ってたよりも上手く行ってるようだね)

楽しそうに話す魔鈴達を少し離れた場所から見ていると、唐巣はホッとしたように安心していた

タマモとシロまで横島と共に魔鈴の元に行ったことに驚いていた唐巣だが、予想以上に上手く行ってるように見える


アシュタロス戦の事を考えると、横島の苦しみは変わらないと思う

しかし、共に悩みや苦しみを分かち合える存在が居ることに心から安堵していた


(もしかしたら、美神君の方が大変かもしれないな…)

唐巣は横島の周辺が思っていたよりよかったことで、もう一人の相手である令子の事を考え始める

令子と横島の関係の内面的部分を見抜いていた唐巣は、支えを失った令子を心配していた

表面的な酷い扱いとは別に、令子の精神面がかなり横島に依存していたことは唐巣も気が付いているのだ


(美智恵君が支えてやれればいいんだが…)

唐巣は令子を心配するも、自分に出来ることは無いと理解している

美智恵の教育の賜物たるあの性格

どこまでも強く、決して弱みは見せない

そんな令子では自分の言葉は届かないだろうと思う


(美智恵君、これが君が望んだ未来かい? 何故誰も信じない… せめて私は信じて欲しかったよ)

決して言葉には出さないが、唐巣は美智恵が自分も信じてくれなかったことが残念で仕方なかった



唐巣がそんなことを考えてる間に、会場には人がかなり集まっている

そして魔鈴の隣には百合子が座っていた

大樹は年度末の決済などがあり、さすがにこれ以上仕事を休めずナルニアに戻っていたのだ


「なんとか卒業出来たわね…」

感慨深げな百合子は静かに卒業式の会場を見つめていた


「本当は普通に高校と大学は卒業させるつもりだったのよ? 前世とか運命とか仕方ないことあったのかもしれないけど、私にとってはただの息子だから…」

複雑そうな表情で語る百合子の話を、魔鈴達は静かに聞いている

百合子の表情は明らかに後悔や悔しさが浮かんでおり、今でもアシュタロス戦に関して納得はしてないようだ


「もちろん魔鈴さんやタマモちゃんやシロちゃんには感謝してるわ。 でもね… 親としてはね…」

悲しそうに笑みを浮かべる百合子に、魔鈴達はなんと声をかけていいかわからない


百合子の話に考え込む魔鈴達

そして、それぞれがいろいろな思いを抱く中、卒業式は静かに始まる


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