白き狼と白き狐と横島

「そう……、忠夫君の希望はわかったわ」

怒りや悲しみや悩みなど複雑な感情が絡み合う横島に、京子はそれ以上告訴を進める事はなかった


(これが世界を救った現実なのかもね)

元々は百合子の依頼から始まった今回の件だが、京子は横島の話を直に聞くのを楽しみにしていた部分がある

神話にも登場する最上級の魔族相手に勝利した立役者だという噂に、横島がどんな若者か興味があったのだ

しかし実際には予想とは全く違って、普通の心に傷を抱えた人と同じである事に複雑な気分だった


「正直な話、どうしたらいいか俺にはわかんないんすよ。 ただ、俺を信じて守ってくれる人達を不幸にはしたくないっすから」

過去については、今現在も横島はどうしたらいいかわかんないままである

関わりたくないと言う言葉には、怒りや嫌悪以外に恐怖も大きい

令子や美智恵の恐ろしさを一番体験したがゆえに、横島には令子達と決着をつける勇気がなかった

これには横島の性格が影響しており、元々争いには向かない人間なのだ

仮に魔鈴達に美智恵などが牙を向けば横島の中のスイッチが入り決着をつけるのだろうが、現状で令子や美智恵が自分達に牙を向く可能性は低いと見ている

まあ横島の考えは横島自身の価値が著しく低いためにわざわざ潰しにかからないだろうという読みだが、実際は逆に横島の価値が高くて手が出せない

理由は的外れだが結果だけは何故か当たっていた


「今回は西条氏が横島君達に今後関わらないように交渉してみるわ。 もし西条氏本人や第三者から接触があっても何も言ってはダメよ」

結局この日決まった事は、問題を表沙汰にする事なく西条が今後関わらないようにするという方針であった



それから数日後、オカルトGメンの応接室は微妙な緊張感に包まれていた

この日いつものように穏やかな笑顔を浮かべた京子が、突然オカルトGメンを訪れていた為である


「はじめまして、弁護士をしてます如月京子です」

「ICPO超常犯罪課日本支部の西条です。 本日のご訪問は除霊に関する相談でしょうか?」

挨拶もそこそこに本題に入る西条、実は弁護士がオカルトGメンを訪れるのはさほど珍しくない


弁護士が来る用件はいくつかあるが、簡単に分けるとおおよそ二つに分けられる

一つは除霊依頼を弁護士を通して依頼する人が居るのだ

基本的に人手不足なオカルトGメンは、よほど緊急を要する依頼以外は基本的に引き受けないため

弁護士を使ってでも、何とか引き受けさせようとする民間人もたまにいるのだ

そして二つ目はオカルトGメンの除霊に関係する損害賠償などの法的問題の対応の為である

オカルトGメンの除霊の際に巻き込まれた民間人の損害賠償やら、除霊が遅れて出た被害の賠償やら細かく上げたらきりがないくらい法的問題が起こることがあるのであった


「突然の訪問申し訳ありません。 私、先日付けで横島忠夫氏の弁護人になりました。 今後はお会いする機会も多いと思うのでよろしくお願いします」

穏やかな笑みのまま語る京子に、西条は驚きと戸惑いを感じる

何故横島が弁護士を雇うのか理解出来ないし、今後会う機会が多いと言う言葉も理解出来ない


「すいません、話が見えないのですが……」

(典型的な公務員体質の人ね)

察しの悪い西条の困ったような問い掛けに、京子は内心呆れ気味である

ただの挨拶に来るはずがないのは、それこそ子供でも察する事が出来るだろう

それに気付かぬ西条に、京子はすでに西条の弱点を悟っていた


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