一方個室を後にした魔鈴は、どこかで見覚えのある京子の事を考えていた


（そうだわ。　あの人は弁護士の如月京子だわ）

料理をしながら考え込んでいた魔鈴は、以前テレビのニュースで見た京子をふと思い出す

弁護士などと関わる事の少ない魔鈴だが、テレビなどに出る有名な弁護士の名前と顔くらいは知っている


（まさか法廷闘争でもする気かしら？）

先日の西条の行動は明らかにオカルトＧメンの職務を逸脱していて危険だったと思う魔鈴だが、さすがに百合子が弁護士を連れて来るとは思わなかった


（プライドが高い西条先輩を告訴すれば効果は大きいでしょうが、横島さんも悪い意味で有名ですからね。　どうなるのか……）

仮に西条を告訴すれば、名誉棄損でも効果は絶大なのは魔鈴も理解している

プライドが高くエリートである誇りを持つ西条が、自身の経歴などを細かく気にする性格なのは知っているのだ


そんな中で魔鈴が心配なのは、横島の事だった

ザンス事件やアシュタロス戦で横島の名前と顔は、お騒がせ者として比較的知られている

そのつど訂正報道やら行われたが、一般人の印象があまり良くないのも事実だった


（一つ間違えれば、また横島さんの心の傷を悪化させますね。　お義母さんはどこまで理解してるんでしょうか？）

横島のために行動している百合子だが、基本的に横島本人を含めて魔鈴達にも詳しく話してはくれない

影で支えてると言えば言葉はいいが、勝手に動いてるとも言えるのだ

美智恵や令子に対抗できるのが百合子しか居ないの現状では仕方ない事かもしれないが、百合子の行動が時として横島をも傷つける可能性がある事を魔鈴は密かに心配していた


（私はどうすれば……）

横島と百合子の微妙なすれ違いに気付いてる数少ない人間である魔鈴だが、親子の問題だけに簡単に口出しも出来ずに苦悩している


（そっとしておいて欲しかったのですがね）

ようやく平穏な日々になったのに不要な波風を立てた西条を、魔鈴は少し恨めしく思ってしまう

横島の心の傷や百合子との親子関係など、これから時間をかけてゆっくり解決しなければならない事なだけに問題を複雑化した西条には苛立ちも感じている


（そういえば、美神さんはどう考えてるのでしょうかね？）

本来は横島と令子の個人的な関係の問題だったはずなのに、いつの間にか周りの人間ばかりが争い警戒する現状に魔鈴はため息が出てしまう

肝心の令子は、あの日横島に殴られた時以降全く動きが見えてこない


（最早本人達の問題というよりは、両親や周りの争いになりつつありますからね）

元々はそれほど複雑な問題ではく、横島が令子の事務所を辞めるだけだったのだ

しかしアシュタロス戦やルシオラ達の問題など複雑な過去が絡みあい、問題は混迷するばかりである


（人の関係は難しいですね。　私は争うのは好きじゃありませんが、ここで妥協は出来ません。　私は横島さんやタマモちゃんやシロちゃんの平和な日常を守らねば……）

これ以上の争いや憎しみは危険だと知りながらも、魔鈴にはどうする事も出来なかった

安易な妥協や和解が、必ずしも横島達の幸せにならない事は理解している

結局魔鈴は、美智恵達に弱みを見せないように毅然と振る舞うしか出来なかったのである