卒業の意味

一方横島の学校では、すでにクラスメイトが集まっている

さすがに卒業式だけあって、早く登校する者ばかりであった


「ピート、また緊張してるのか?」

緊張した様子で表情の固いピートに横島は苦笑いを浮かべる


「いや… なんか落ち着かなくて」

「アッシも… アッシも…」

ピートの隣では、緊張と卒業の感動で変なテンションのタイガーが挙動不審になっていた


「二人に比べて横島君は落ち着いてるわね~」

愛子はむしろ、卒業式に一人落ち着いている横島が不思議に思えた


普通は多少は緊張するのが当然である

クラスを見渡しても、横島が一番普通なようだ


「俺は濃い人生送って来たからな… 命の危険を感じたのは何度もあるし、人類の裏切り者にされたこともあるしな。 今更卒業式に緊張はしないよ」

笑い事のように軽く話す横島に、愛子も思わず笑みが浮かぶ


「結局、一番変わったのは横島君だったわね。 みんな成長したけど横島君ほどじゃないわ」

愛子の言葉にピートや周りのクラスメートは密かに頷いていた

それだけ誰一人、横島がこれほど変わるとは予想も出来なかっただろう



横島達がそんな会話をしている間に、卒業式の会場は卒業生の親や来賓などが集まり始めていた


「先生は何処でござろうか?」

イマイチ卒業式を理解してないシロは、学校に到着するなり横島を探そうとする


「バカ犬! 卒業生は後から来るのよ! 私達はそれを見てるの!」

「犬じゃないもん!」

いつもの調子で会話するシロとタマモだが、今日は少し大人しい

わざわざ卒業式用のいつも着ないような服を着ている為であろう


「ほら、二人共静かにしましょうね」

魔鈴はそんな二人を連れて、保護者席の後ろの方に座った

二人に合わせたのか魔鈴も珍しく魔女の服ではなく、普通のスーツである


本来は保護者などしか入れないのだろうが、横島の学校の性質だろうか

何の問題も無く魔鈴達は入れていた


「あれ… 君達は…」

シロとタマモを見つけて声をかけて来たのは唐巣であった


「お久しぶりでござる!」

「こんにちわ」

挨拶する二人に唐巣は近寄り、ようやく隣に魔鈴が居る事に気がつく

唐巣が魔鈴に気がつくのが遅れた理由は一つ、服装のせいである

魔女の服以外の魔鈴を見るのが始めてのためであった


「お久しぶりです。 唐巣神父」

(随分雰囲気が変わったな…)

おしとやかに頭を下げる魔鈴の微妙な雰囲気の変化に、唐巣は内心驚いていた

特にどこが変わったかと聞かれても困るが、表情や仕種が変化した気がしている


「やあ、魔鈴君久しぶりだね。 横島君の卒業式を見に来たのかい?」

「はい、私も見たかったんですが、タマモちゃんとシロちゃんに人間社会を見せようと思いまして…」

唐巣がすでに横島と自分達の関係を知っていたことに少し驚く魔鈴だが、元々令子の師匠のためかと思う


一方唐巣は、魔鈴が話した理由に興味を示していた

(二人に人間社会を教えようとしているのか…)


人間社会には少なからず妖怪などが居る

ある程度力と知恵のある妖怪は、人間を避けて生きるか

逆に人間社会で正体を隠して生きるかのどちらかである


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