白き狼と白き狐と横島

同じ頃西条は、美神事務所で令子と話をしていた

話の内容はもっぱら心霊捜査を撤退した事への愚痴であり、令子は表情こそ変えないが内心呆れながら聞いている


「何故みんな心霊捜査を認めないんだ! この先の日本の犯罪捜査には必ず必要となるのに……」

確かな信念にもとずいて行動している西条だが、相変わらず自分の信念や価値観が全てだった

令子が冷たい視線で見つめてもお構いなしで怒り混じりに愚痴る姿は、情けなくも見える


「ねえ、西条さん。 心霊捜査を普及させる事はいいとして、実際に誰が捜査をするの? 特殊能力の霊能者は数が少ないし、お金にならない警察の事件に誰か協力してくれるの?」

令子としては西条がどこまで考えているのか疑問だった

心霊捜査に関しては現在でも稀にではあるが、犯罪捜査や失踪事件に用いられる事はある

ただそのほぼ全ては、民間が依頼人なのだ

犯罪事件で冤罪なのに逮捕された被告人や犯罪被害者の家族などが、わらにもすがる思いで依頼するのが普通だった

高額な割には成果が曖昧な心霊捜査は、それこそ最後の希望のような扱いである

オカルト内外問わず現状でも仕事がたくさんある特殊能力を持つ霊能者が、警察に協力するとは令子には思えない



「いや、特定の協力者は居ないんだが…… しかし社会の安全を考えれば必要だろう? 霊能者への報酬は国の予算を付ける事も必要だし、霊能者側も社会の為に協力する事が必要だろう。 だがその前に心霊捜査の確かな実績を作る事が必要だ」

独自の価値観から考えを語る西条を令子は静かに見つめていた


(無理ね。 現状の日本で警察が出せる報酬はたかがしれてるし、仮に必要以上に霊能者に報酬を払えば一般の警察官がやる気をなくすわ。 あくまでも日本は科学捜査が基本だし警察官の地道な捜査が必要なのよ)

美智恵や魔鈴はすでに気付いている事だが、西条の考えには人の心の問題が置き去りなのである

霊能者の高額な報酬は、オカルトという一般人には解決出来ない分野だからいいのだ

犯罪捜査などで一般人と一緒に働き、その上で報酬が桁違いでは必ず摩擦が起きると令子は確信していた

かと言って一般警察官並の報酬で働く霊能者など、皆無に等しい

令子ほど高額な収入を求めてなくとも、誰だってお金は欲しいのだ

仮に唐巣のような霊能者が協力したとしても、個人で出来る事はたかがしれてる

警察という組織に心霊捜査を導入するのは不可能だと令子は考えていた


(霊能者と一般人の摩擦を煽ってどうするつもりなんだか……)

日本でトップのGSとして名実共に誰もが知る霊能者である令子なだけに、一般人と霊能者の違いや難しさは誰よりも理解している

憧れの職業と言えば言葉はいいが、憧れの裏には嫉みや嫉妬がつきものなのだ

特殊能力が必要ゆえに人材不足で高額になる霊能者を、一般人がどう見てるかは令子が一番敏感に感じてるかもしれない


無理矢理に心霊捜査を警察に導入させても人間関係で失敗する可能性が高いし、費用の割には成果が出ないと令子は考えていた


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