「魔鈴さん……」

心配そうな魔鈴の表情に、横島はどうしていいか分からなかった

何が魔鈴を心配させているのか理解出来ないのだ


（焦ってはダメですね）

困惑気味の横島に魔鈴は優しい笑顔を浮かべる

ルシオラの件が全く進展せずに不安や焦りが募っていた魔鈴は、自分でも知らず知らずのうちに焦っていたと気付く


「横島さん、思う事があれば話して下さいね。　みんなで考えればいい結論が出るかもしれませんよ」

結局少しずつ横島の意識を変えて行くしかないと考えた魔鈴は、今はこれ以上言えなかった

心の問題はデリケートであり魔鈴にもよくわからないが、時間が必要な事だけは理解している

今は横島が心を開く環境を整え維持していく事が大切だと考えていた


「そろそろ寝ましょうか。　あまり遅くなると明日に差し支えますし、それに……」

困惑気味な横島に意味深な笑みを浮かべた魔鈴は、明かりを消してベッドに入っていく

漆黒とも言える光が無い部屋には、魔鈴の服を脱ぐ音が静かに響いていた

そして二人は…………



一方タマモとシロの部屋では、シロが腕立て伏せや腹筋などをして体を鍛えていた

自分達の未来や横島の現状など、正直幼いシロの頭では処理しきれない問題ばかりだったのだ

だからと言ってじっとして考えるのも性に合わないシロは、とりあえず強くなるために体を鍛えている


「シロ、寝る前に汗をかいてどうするのよ。　またお風呂入るつもり？」

体を動かすシロを最初は黙って見ていたタマモだが、本格的に体を鍛えていくシロにはさすがに呆れ気味であった


「タマモ、拙者はどうすればいいのでござろうか？」

タマモの表情や言葉も頭に入らないほどシロは悩んでいる

ずっと横島の力になりたいと思って修行してきたシロだが、未だに横島に守られてるだけの現状には言葉にならない悔しさが募っていた


「私にもわからないわ。　そもそも私の前世は人間と一緒に生きようとして失敗した訳だし。　ただ言えるのは、私達が危険な事に首を突っ込むのはダメだって事ね」

「拙者、危険な事に関わるつもりはござらんが……？」

「そのつもりが無くても、あんたが危なっかしいのは確かなのよね。　武士道がどうとか言って逃げるのが嫌だって言うしね」

タマモの言葉にシロは体を動かすのを止めて話を始めるが、イマイチ理解出来ないようである

危険な事に関わるつもりは無いシロだが、武士道を追求してる節もあり危険な事を回避するという思考はあまりない


「危険な事に関わらない事と逃げるのは別でござろう。　悪い事をしてないならば、正々堂々と生きるべきだと思うでござるが……」

「シロ、世の中そんなにまっすぐで綺麗じゃないのよ。　私はあなたのそんな単純な思考が利用されそうで怖いわ」

幼いがゆえに世界を知らないシロを、タマモは複雑な表情で見つめていた

シロのまっすぐな生き方は、羨ましくもあるが心配でもある


（美神美智恵なら、シロを危険に巻き込む事は可能でしょうね）

自分達の周りで一番危なっかしいシロをどうすればいいのか、タマモは悩んでしまう

自分の価値観を押し付けるつもりはないが、白か黒で物事を判断しがちのシロに現実の難しさを理解させるのは簡単ではない


（当分私が気をつけるしかないわね）

必死に考え込むシロを見て、タマモは苦笑いを浮かべてしばらく様子を見ようと考えていた