白き狼と白き狐と横島

そして深夜になった頃、寝室に入った横島は少し疲れた様子でベッドに横になった


「横島さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫っすよ。 ちょっと馴れない頭を使ったんで疲れただけっす」

心配そうに様子を伺う魔鈴に横島は笑顔で答えるが、その表情はいつもよりは冴えない


「やっぱり俺には、何が正しいのかなんてわからないんです。 今日あいつらに話した事も話してよかったのか、未だに迷ってます」

タマモ達や愛子達に想いや考えを話した横島だが、未だに話してよかったのか分からないまま苦悩していた

自分に対する自信が全く無い横島は、当然自分の考えにも全く自信がない

自分の事ですら満足に出来ない自分が他人の事を語る時点で、ダメな気がしてしまうのだ


「横島さん、私は話してよかったと思いますよ。 正直私も横島さんに言われるまでは考えもしなかった事ですが、二人の能力を世の中に広めるのは危険な気がします」

タマモとシロと親しくなり結構月日が過ぎたが、魔鈴は二人の能力の高さには驚かされるばかりだった

知識としては人狼や妖狐を知っていた魔鈴だが、実際に生活を共にすると想像以上だったのだ

しかも普通の日常生活ですら能力の高さを感じるのだから、除霊など実戦になると相当なものだろうと予想している

多くの人間がそんな二人を知れば、おそらく自由にはさせないという現実を魔鈴は知っている


「でも、俺の考えなんかを押し付けちゃいけないかなとも思いますし…… やっぱり西条の相手をしたのが間違いっすね」

イマイチすっきりしない横島は、そもそもの原因である西条を相手にした事が間違いだと考えていた

昔からそうだが、西条に関わるとロクな事がないのだ


「横島さん。 私達はもう少しあなたに素直になってほしいです。 一人で抱え込むのは、あまりいい事じゃありませんよ」

複雑そうな横島に、魔鈴は少し困ったような笑顔を浮かべて語りかけていく

いつから横島が大切な事を隠して生きていたのかは、魔鈴も知らない

昔は嘘がつけないほど馬鹿だと言われていた横島だが、それが全てでない事を魔鈴は理解している


(自分が信じられないならば、せめて私達を信じてほしいのですが……)

異常とも言えるほと自分が信じられない横島に、魔鈴はどうやって自分を信じる事と自信をつけてやればいいのかずっと考え続けていた


しかし未だに魔鈴にもどうすればいいかわからない


(基本的に臆病なのでしょうね)

以前の周りを偽っていた頃の横島を思い出す魔鈴は、一見楽天的に見える横島が実は臆病で繊細な性格なのに気付いている

傷付くのが怖いから本心を隠し、何事も笑いに持っていく気がするのだ


「俺、素直じゃないっすか? そんな事初めて言われたな~」

魔鈴の心配をよそに、横島は思わぬ言葉を聞いて不思議そうにキョトンとしてしまう

横島としては魔鈴やタマモやシロには素直に何でも言ってるつもりだし、抱え込んでる自覚も全くない


(無自覚なのが一番重症ですね)

自分は馬鹿で親しい人間には隠し事など出来ないと思い込んでる横島を、魔鈴は静かに抱きしめていた

信頼してる相手にすらナチュラルに素直になれない横島の生き方は、魔鈴から見れば痛々しく見えている


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