白き狼と白き狐と横島

その後、先に店の後片付けを手早く済ませた横島達は自宅のリビングで話をする事にしたのだが、部屋には微妙な空気が広がっている

驚きや戸惑いが消えない愛子・ピート・タイガーは元より、タマモとシロもどこまで聞いていいかわからないでいた

先程一瞬壊れそうになった横島なだけに、みんなが横島を心配している


「俺さ、馬鹿で何にも知らないし何にも出来ないけど、お前らのこと真剣に考えてたんだ」

微妙な空気の中で話を始めた横島だが、何をどう話せばいいのか全くわからなかった

元々確固たる信念や考えがある訳じゃないし、全ては感性と漠然とした考えから動いているたけだから仕方ないのだが……


「美神さんのとこでバイトを初めてから、いろんな妖怪や神魔達と会った。 でもさ…… 馬鹿な俺にとってはたいした違いがあるとは、ずっと思えなかったんだ」

何を話せばいいかわからない横島は、ふと昔を思い出して自分の価値観を話し始める

始まりがどこかは横島本人にもわからない

悪霊や邪悪な妖怪が怖いと思うのは当然あったが、半面では穏やかな妖怪には抵抗感は全くなかった

それどころか美人な妖怪や幽霊には、心を惹かれる事すら珍しい事ではない

前は横島本人もそれが普通だと思っていたが、世間一般ではそんな価値観を持つ人間が少ないのはアシュタロス戦やルシオラの件でよく理解している


「ルシオラだって必死に生きてたし、シロやタマモや愛子やピートだって必死に生きてる。 なのになんで人間はそんなみんなを認めないのか、俺には未だに理解出来ない」

妖怪や魔族などの人外に対して、何故人間が理解しようとしないのか横島には全くわからない

西条が横島の気持ちを理解出来なかった事と同じように、横島は西条や普通の人間の気持ちが理解出来ないのだ


「横島君……」

横島の独白に愛子やピートは、なんと言えばいいかわからないほどの驚きと戸惑いを感じる

横島の価値観は人間と言うよりは、妖怪などの人外に近かった

妖怪というだけで恐れられ受け入れられない苦悩は、多くの妖怪が一度は味わう事である

人間である横島がそんな妖怪と同じ苦悩を抱えている現実に、一同は信じられない想いだった


「ルシオラの件の後、いろいろ考えたんだ。 美神さんはルシオラが正しい事をしたって言ったけど、俺はそうは思わない。 魔族であるルシオラが人間を守った事は、魔族にとって裏切りと同じなんじゃないのか?」

その言葉に一同は凍りつく

誰もが触れず考えもしなかったルシオラの想いや気持ちを、やはり横島が一番考えていた

魔鈴や雪之丞ですら、アシュタロス戦当時はそこまで考えてなかっただろう

人間の勝利と正しい事をしたルシオラと言うのは、人間から見れば美談にもなるし正義かもしれない

しかしそんな人間に絶望した横島にとっては、許せない事だった


「俺はあの時、人類の裏切り者って言われた。 周りの人やクラスメートですら信じてもらえずに憎まれた。 あの辛さは誰にもわからないと思う。 同じ立場になったルシオラやパピリオ以外はな……」

後悔するように語る横島に誰も声をかけれる者はいない

魔鈴ですら横島の語る事を受け止めてやるしか出来なかったのである


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