白き狼と白き狐と横島

「俺は二人が人間の社会で生きて行けるようにしたいと思ってるんすけど、同時に妖怪として生きる道も残してやりたいんです。 その為には同じ妖怪を狩る側に回っちゃダメな気がして……」

驚きの表情で聞いている魔鈴に、横島は更に自分の考えを説明していく

横島自身考えが纏まっておらず自分の悩みを話す感じでもあったが、その話と内容に魔鈴は驚きと衝撃を感じている


「本当に二人が大切なんですね」

もちろん魔鈴もシロとタマモの事は考えていたが、横島の考えはその遥か先を行っていた

つい先日まではルシオラの事で苦しんでいた横島が、まさか二人の将来まで具体的に考えていた事実には驚くしかない


「あいつらは俺を信じてくれたっすからね。 俺はあいつらに出来るだけたくさんの未来を用意してやりたいんっすよ」

魔鈴の言葉に横島は少し照れたように笑うが、魔鈴は純粋に横島の考えに感動している


(責任感? いえ二人の信頼が横島さんを成長させたのかもしれない)

精神的に追い詰められ壊れそうだった横島が、僅かな期間で別人のように成長している事実に魔鈴はただ驚くしかない
 
 
「五百年後や千年後…… たとえ世界がどんなに変わろうとも、生きていけるだけの土台と環境を作ってやりたいんです」

相変わらず照れたように語る横島だが、その瞳には強い光が見えていた

その瞳の光と千年先を見る横島に、魔鈴は言葉にならないほど大きな可能性を感じる


(この人はどこまで変わるのだろう)

かつて横島の行動を周りが評価すると、みんな口々に良くわからないと言う

それが横島を特別視したり特殊な扱いをする原因になっていたのは事実であるが、魔鈴は気付き始めていた

わからなかったのは、誰も理解出来ないレベルの価値観だったのではないかという事に

そして令子や百合子と言う強すぎる存在から離れた横島が、本来あるべき才能を伸ばしはじめている事実に


(美神さんもお義母さまも個性が強すぎる。 横島さんは自然と二人を頼っていたし、二人は横島さんを押さえ付ける方に熱心だった。 それが無くなって僅かな信頼でこれほど変わるなんて……)

横島がこれほど二人の未来を考えた理由は、シロとタマモの信頼だろう

信頼と二人を守りたいという気持ちが、横島を劇的に成長させたのだ

(私はもっと横島さんをしっかり見てないとダメですね)

横島の成長スピードと可能性に、魔鈴は期待と不安の入り混じった気持ちだった

この先どこまで成長するか楽しみだが、同時に一歩間違えれば再び横島は壊れてしまうだろう

愛する者として、魔鈴は横島を守り共に成長しなければならない

それは楽しみでもあり不安でもあった



この件から横島と魔鈴は、時間をかけてシロとタマモの事を話し合っていくことになる

除霊の仕事に関わらせない事は元より、横島の卒業式に二人を連れて行く事や店で働く事などの今後方針が決まるのはこのすぐ後であった

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