白き狼と白き狐と横島

《有り得ない》それが魔鈴の印象だった

国際警察のオカルトGメンが、犯罪捜査に死者を利用するなど考えられない


「いや、これは僕の個人でする捜査なんだ。 魂を降霊する問題点は理解しているが、被害者も犯人逮捕は望んでるはず……」

魔鈴のあまりの驚きように、西条は言いにくそうに個人でする捜査だと話し始めた

隠すつもりはないのだろうが、捜査方針の対立など裏側はあまり話したくないのも事実のようだ


「個人って……」

話の方向がどんどんおかしくなるのを、魔鈴はヒシヒシと感じている


(やはり美神美智恵さんの罠……?)

正式な仕事でない以上、それなりに理由があるはずなのだ

正直、怪し過ぎる話でしかなかった


「実は先生は心霊捜査の導入には積極的じゃないんだ。 でも日本の科学捜査に心霊捜査を加えれば、多くの人達を救える。 これ以上連続殺人の被害者を出さないためにも頼む!」

心霊捜査の必要性を熱心に語り深く頭を下げる西条だが、魔鈴は困惑しながら見ている

西条の熱意や理想はわかるが、あまりにも一方的過ぎる意見だった


「西条先輩。 仮に降霊したとして、殺された被害者の恨みや憎しみはどうするつもりですか? 犯人逮捕で被害者が納得しますか?」

あまりにも人の心を安易に考える西条に、魔鈴は険しい表情で語り始める

ただでさえ死者の後悔や想いは大変なのに、殺された者の恨みや憎しみや苦しみは特に半端でない

悪霊となる魂も恨みや憎しみが原因になる事が多いのだ

強力な悪霊だと下級神魔より強い悪霊も存在し、決して侮れる事ではない

そんな事はオカルト業界に携わる者なら誰でも知る現実である

魔鈴は西条ほどの霊能者が、何故そんな基本的な事を考えないのか不思議で仕方なかった


「それはわかってる。 しかし復讐や恨みからは何も生まれない。 被害者の霊は僕が説得する」

「説得でダメならばどうしますか?」

「その時は心苦しいが、強制的に成仏してもらうしかないだろうな」

その西条の言葉に魔鈴は唖然としていた

GSが強制的に除霊し成仏させるのは、人を傷付けるなど被害があるからである

こちらから勝手に呼び出して聞きたい事を聞き出しておいて、生きてる人間の理屈を通そうとするのはあまりに勝手だと思う


(この人は被害者の本当の苦しみや痛みを、まるで理解してない……)

それは魔鈴にとって衝撃に近いものだった

弱者や弱い立場の者達を救おうとする西条の心情は、魔鈴にとって尊敬できる部分である

横島や雪之丞の件で西条の欠点は見えてはいたが、それでも西条の全てを否定した訳ではない

しかし西条は多くの人々を救おうとするあまり、すでに犠牲になった被害者の事をほとんど考えてないのだ


(殺された被害者に事件の状況や犯人の事を聞くなんて、もう一度殺すようなものなのに…… 殺された被害者が犯人逮捕などで納得出来るはずはないわ)

被害者の気持ちや感情や心の傷などまるで理解してない西条が、魔鈴には信じられない思いだった


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