白き狼と白き狐と横島

それから更に数日が過ぎていた

西条はあれから霊能者を変えて複数回霊視とサイコメトリーを続けていたが、結局犯人に繋がる成果はないままである

相変わらず勤務時間外に捜査を続けてる事で美智恵は静観していたが、のめり込み過ぎる西条にはやはり困っているようであった


「先生、お願いします」

そんな西条だが、この日は勤務時間が終わってすぐに一枚の書類を美智恵に持って来る


「GS犬の申請ね……」

西条が持って来た書類はGS犬の申請書だった

霊視とサイコメトリーに限界を感じていた西条は、今度はGS犬で霊波追跡を行うつもりのようだ


「申請を出すのは構わないけど、GS犬は数が少ないから使えるのは一番早くて半年後よ。 いいの?」

真剣な表情の西条と対照的に、美智恵は飽きれ気味である

圧倒的に数が少ないGS犬は、世界中でひっぱりだこなのだ

もちろん日本には存在しないし、オカルトGメンでさえも申請してから導入までは半年から一年以上かかる事がある

美智恵は西条がいつまで事件にこだわるのか判断しかねていた


「構いません。 この事件は必ず解決します! 次は降霊をしてみるつもりです」

「まさか、被害者を降霊するつもりなの!?」

GS犬での霊波追跡以外にも新しい捜査を考えていた西条だが、美智恵は驚き声を荒げてしまう


「はい、専門の霊能者と現在交渉中です。 被害者から直接聞き取れば、これ以上ない確証が掴めると思います」

どこまでも正義感溢れる西条に、美智恵は頭に血が上るのを抑えていた


「西条君、これは命令です。 連続殺人事件から手を引きなさい。 心霊捜査に降霊術を用いる問題を貴方も知ってるはずでしょう!」

冷静に話している美智恵だが、その表情は険しいものだった


さて降霊についてだが、降霊とは死者の魂を呼び出して話をすることである

有名なところだと恐山のイタコなどが知られているように、特殊な修行を積んだ霊能者が死者の魂を一時的に現生に呼び出すことなのだ

普通は家族などが亡くなった者と話すために行われることであり、犯罪捜査に用いる事はない


その理由として心霊捜査が発祥して普及したヨーロッパでは、降霊が宗教的理由からタブー視されていること

それに加え被害者を無理矢理呼び出して死の原因を聞くと言う行為は、倫理的問題もあるとされる

美智恵は西条がそんな手段まで用いるとはさすがに思わなかった


「問題があるのはわかってます。 しかし被害者も犯人が逮捕されることを望んでるはず……」

美智恵に反論するように語る西条も、無論降霊の問題点は理解している

しかし事件の解決は被害者も喜ぶだろうというのが西条の考えであり、降霊を心霊捜査に加えればより多くの事件を解決出来るだろうと考えていたのだ


「西条君、あなたはとても優秀よ。 でもね……、人の心がわかってない。 この事件に関しては、警視庁に一任します。 今後はマスコミ対策や事後処理に回ってちょうだい」

「先生!」

「これは命令です!」

声を荒げ抗議する西条に、美智恵は強引に捜査の終了を言い渡す

突然の捜査終了に西条は納得がいなかい表情で美智恵を見つめるが、仕方なくその場をあとにしていく


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