その後も撮影を見学していく横島達だが、場面ごとやカットごとに撮影していくためにストーリーなどはわからない

しかし誰でも知るような俳優や女優の演技に、横島達は釘付けになる

中でも目を輝かせて見つめる愛子と雪之丞は、撮影を生で見れた喜びに浸っていた


「スゲー！」

「本当ね！　まかさ生で見れるなんて……」

美人女優の演技に雪之丞は思わず喜びにの声を上げ、愛子はそれに共感するように答えた

横島や魔鈴やタイガーも喜んで見てははいるが、この二人は別格で意気投合して映画について熱く語り始める


「雪之丞が映画や芸能人好きだとは意外だな」

「そうですノー」

俳優や女優も珍しいが雪之丞が映画好きなのも珍しく、普段の雪之丞を知る横島とタイガーはその変わりように驚きを隠せない


（雪之丞さんも年相応の表情をするんですね）

驚く横島達とは対称的に、魔鈴は少しホッとした表情を浮かべている

最近は魔鈴の自宅に居る時間も長く、以前に比べれば素顔の雪之丞を見る事が多い

身内の者には何処にでも居るような若者と変わらない雪之丞だが、やはり他人と言うか社会に対しては壁を作っているような印象だったのだ


（この表情を見る限りは、なんとかなりそうですね）

魔鈴自身も人付き合いがあまり上手くないため、雪之丞の気持ちを理解出来る部分もある

それに他人や社会の理不尽な評価や視線に悩む雪之丞の姿は、魔女として好奇の視線に晒されてきた魔鈴も共感を抱く事があるのだ

人や社会との関わり方が下手な雪之丞だが、今の年相応に無邪気な姿を見ると今後はいい方向に変わって行けるのではと魔鈴は思う



それから横島達は３時間ほど撮影を見学して帰る事にした

誘ってくれた銀一は忙しく挨拶も出来なかったのだが、マネージャーにお礼を言って帰っていく


「面白かったわね」

「そうでござるな～　みんな凄かったでござる」

見る物全てが珍しかったタマモとシロは、別世界のような撮影現場に人間社会の奥深さを感じていた

横島や令子などの規格外な人間との関わりが多かっただけに、感じるモノも違うようである


「映画楽しみね～　出来れば映画館で見てみたいわ。　私、映画館って行った事無いのよね」

一方撮影の余韻に浸っていた愛子は、改めて映画が楽しみになっていた

そしてそれと同時に、映画館に行った事が無いだけに一度でいいから行ってみたいと思っているようだ


「お前、映画館行った事無いのか？」

「当たり前でしょ。　私は妖怪なのよ」

映画館に行った事が無いと言う愛子に横島・雪之丞・タイガーの三人は驚くが、愛子は妖怪だから当然だと言う

近所の商店街とかなら顔を知られているため問題無いが、あまり学校から離れた場所だと愛子も不安らしい

さすがに妖怪だからと言って無差別に攻撃はされないが、場合によっては危険になる可能性も否定出来ないのだ


「じゃあ、今度みんなで行ってみるか？　魔鈴さんや雪之丞はＧＳだから、多分大丈夫だぞ」

少し悲しそうな愛子の表情に、横島は思わず映画館に誘っていた

生き返る前のおキヌもそうだったように、ＧＳ免許を持つ者が側に居ればどこにでも行けるのだ

愛子の場合は本体の机が目立つが、見方によっては妖怪に見えない可能性もあるし邪悪な妖怪に見えない点が大きい


「そうだな。　映画くらいならいつでも連れて行ってやるよ」

横島の言葉に同意するように、雪之丞も映画に連れていくと言う

先程は映画の話で意気投合しており、雪之丞には珍しいほど早く打ち解けていたのだ


「みんな……　ありがとう」

横島や雪之丞の何気ない言葉に、愛子の心には言葉にならないほど感情が溢れていた