GS試験再び……

「クッ……、何故全力を出さないのですか!!」

力の差は理解してる相手だが、やはり手加減される事だけは我慢出来ないようである

戦う以上は全力で戦う事が、相手への礼儀だと考えているようだ


「悪いな。 俺にも事情があるんだ」

相手の考え方に共感を覚えると同時に、雪之丞は全力で戦えない苦悩を抱えてた

本来の雪之丞の性格なら、相手が全力を求めるのに手加減するなど間違ってもしないだろう

しかし、過去が原因で雪之丞はこの場所で全力が出せない


(俺の過去を知ってなお、この場所に来るチャンスをくれたあいつらの顔に泥を塗る訳にいかないんだ)

決勝だけあって会場の注目は雪之丞の試合に集まっている

普通は受験者の実力を見るのだが、雪之丞の場合は行動全てが見られているのだ

魔族と手を組んだ雪之丞が本当に変わったのか、多くの関係者の注目はそこに集まってると言っても過言ではない

そんな関係者の思惑を痛いほど感じてる雪之丞は、この場で自由に戦う事は出来なかった



結果雪之丞は最後まで全力を出す事無く、受けの戦いを貫いて試合は終わる
 
敗者の相手は最後まで雪之丞に全力を出させる事が出来なかった事を悔しそうだし、勝者の雪之丞も決して気持ちのいい勝ち方では無かった

だが過去との変わった姿を一貫して貫けた事には、ホッとした部分もある


(ようやくスタートラインに立てたな……)

昔のように自由気ままに戦え無くはなったが、それでも雪之丞はGSのスタートラインに立てた事を喜んでいた

亡き母親に誇れる人間になりたい

そして二度と後悔しない為にも、自分はGSになる

その決意の元、雪之丞のGS試験は終わりを告げていた



試合後、雪之丞には観客から多くの拍手が送られていた

それは昨日の第一試合の時の対応と比べると、天と地ほどの差がある対応である

無論、観客や関係者の全てが雪之丞を変わったと信じた訳ではないが、それでも最初にあった恐怖や疑念の感情が少しは薄れた事は確かだった


「上出来ね」

一方観客の反応を見たエミは、僅かに笑みを浮かべて一言つぶやく

過去は変わらないし、一生付いて回るのはエミが誰よりも理解している

だが雪之丞が自分の過去を受け止めて生きていくだけの覚悟を見せた事で、今後のGSとしてやっていけるだろうと思う


「二人とも合格してよかったな~」

「そうですね。 正直、ホッとしました」

横島は単純に雪之丞とタイガーの合格を喜んでいるが、魔鈴は自分の試験の時以上に気を使っていた為に二人が合格して本当にホッとしたような笑顔である


一歩間違えれば雪之丞とタイガーの人生を左右するほど重要な試験だっただけに、細かな気苦労が絶えなかったのだ

エミはだいぶ前からタイガーを弟子にしていたので心構えなど出来ていたが

今まで一人で生きてきた魔鈴は、形の上だけとはいえ弟子を試験に送り出す事は本人の予想以上に大変だったのである


「じゃあ、今日はパッと祝杯でも上げましょうか!」

会場の観客や関係者が帰って行く流れの中で、試験の緊張感から解放された横島達は楽しそう会話をしながら雪之丞とタイガーと合流しに向かって行った



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