GS試験再び……

「バイト辞めただけだろ。 なんか問題あるか?」

冷たく無表情な横島は淡々と語る

横島にしてみれば何故西条がそんな事を言うのか、全くわからない

令子を狙う西条からすれば、横島が辞めた件は好都合なはずなのだ


「君と言う男は……」

気付かないのか無視しているのかわからないが、令子の気持ちをまるで考えてない横島に西条は苛立ちを募らせていく


「西条先輩、止めてください。 横島さんは今、私と付き合ってるんです」

「なっ……!?」

一触即発のような空気を一変させたのは魔鈴の一言だった

西条はその言葉の意味をすぐに理解出来ないようで、しばし呆然としてしまう


「西条先輩が美神さんを大切に思ってる事は理解してます。 でも私は同じくらいに横島さんを大切に思ってます。 その事をわかって下さい」

目の前で頭を下げる魔鈴に、西条はなんと言葉をかけていいかわからない

令子の事務所を辞めた横島が魔鈴の店で働き始めたのは噂で知っていたが、まさか付き合っていたとは夢にも思わなかったのだ


「魔鈴君、幸せか?」

「はい」
 
「そうか、すまなかったね」

魔鈴の幸せそうな笑顔に、西条は魔鈴にだけ一言謝って去っていくが、横島に対しては何も無いままだった


「嫌な野郎だな」

雪之丞は西条の後ろ姿を見て嫌悪感を露にしている

ロクに知りもしない西条に好き勝手言われた事が、ムカついたようだ

それでも西条に対して何も言わずに我慢していたのは、自分を信頼する横島や魔鈴達に対する気遣いであった


「エリート様だからな。 俺やお前の気持ちなんて理解出来ねえよ」

雪之丞をなだめるように話す横島だが、その言葉にはキツイ皮肉が込められている

雪之丞と違い西条に対して冷めた感情しかない横島だが、やはり嫌いなのは変わらないらしい


「あの手の人間は良く居るワケ。 特に役人関係にはね。 これからGSになるなら、適度な距離で上手く付き合う事を覚えなさい」

先程まで静観を決め込んでいたエミが雪之丞に言葉をかけるが、彼女の言葉は重みが違っていた

公務員やエリートの人間はプライドが高く、相手を見下す連中は少なくない

特にエミは警察関係を始め公務員との付き合いが長いから、嫌と言うほど西条のような人間と関わって来たようである


「悪い人では無いんですけど……、型から外れた人に対してはイマイチ理解が無いんですよね」

雪之丞の事に関しては西条に悪気が無いのを知っている魔鈴だったが、理解が無いのも知っていた

基本的に自分の価値観にある社会観から外れる人間に対して、西条は冷たい

相手を学歴や肩書で見る事の多い公務員特有の性質なのだ


(それにしても、まさかあんな事を言うとは思わなかったですね)

雪之丞に続き横島を見た魔鈴だったが、横島がキレたり暴走しなくてホッとしている

一番デリケートな部分に土足で踏み込んだ西条に対して、横島は驚くほど冷静だった


(大丈夫でしょうか)

魔鈴は横島の精神状態を注意深く見つめていく

以前の例もあるし、本人が気付かない事があるから油断が出来ないのだ


(以前の横島さんの扱いの悪さが良くわかりますね)

多分西条は、昔と変わらぬ態度で接しただけなのだろうと魔鈴は思う

しかし問題だったのは西条が何も知らなかった事である

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