終わりと始まり

魔鈴の店を去った令子は事務所に戻っていた

帰って早々、人工幽霊から横島が文珠を回収した事を告げられるが、令子は一言返事をして終わってしまう


事務所のデスクに座り何をするでも無くただ呆然とする令子の姿は、彼女を良く知る人が見たら目を疑うほど別人のようである


強くプライドに満ちて、誰も寄せつけないような気配はない

例えるなら親の帰りを待つ子供のような、二度と戻らぬ故人を待つ人のような、そんな雰囲気であった



「令子、大丈夫?」

事務所に入って来るなり美智恵は心配そうに令子の様子を伺う


「別に… なんでも無いわ。 昨日の事件の事よね」

美智恵の心配そうな顔を見て、令子は表情をいつものように戻した

理由は本人にもわからないが

ただ、横島が去ってショックを受けてると認めなくないのかもしれない


「ええ…」

一方美智恵は、令子が横島の件を口にしない事に困っていた

まさか自分だけ前から知っていたとは言えず、どうやって魔鈴の店での状況を聞き出そうか悩んでいる


「私は、何もしてないわ。 全て横島クンが…」

令子は何故か途中で言葉に詰まってしまう

名前を口にしただけで、心が魂が引き裂かれるような感じであった


「無事飛行機も降りたんだし、問題無いでしょ?」

何も考えたくない令子は、そう話して言葉を終えてしまう


「令子…、何かあった?」

一見いつものように演じてる令子だが美智恵にはそれが余計に痛々しく見え、そしてそんな令子を放っておけない


「横島クンが事務所を辞めたわ。 それだけよ…」

微かに奮えそうな声を必死に制御して、やっと令子は現実を口にする


変わらぬ現実、目の前で知った真実

それは今でも信じられない思いであった

何食わぬ顔でまた事務所に来るような気もする

令子はまだ現実を受け止められないで居た



「そう…」

今にも壊れてしまいそうな娘に美智恵はかける言葉もない

(終わってしまった時を戻すことは出来ない。 時間移動で過去を変えても、この世界とまた別の未来を生み出すだけ。 この令子は救えない)

頭をフル回転させて必死に解決策を考えるが、美智恵にも方法が浮かばない
 
 
彼女は最早気が付いてしまう

横島を破滅させることは出来ても、令子の元に戻ってくることは無いことを

仮に今更戻って来ても、もう元の関係には戻れないことを…


「さあ! 今日もバリバリ稼ぐわよ! 新しいバイトも必要ね。 忙しいからママは帰ってよ」

母親には弱った自分は見せたくない令子は、気合いを入れて立ち上がる


自分は美神美智恵の娘なのだから、常に前を見て戦い続けなくては…

令子はそう思って動きだすが、前世から千年も待ち望んだ愛を、それほど簡単に整理出来ない事を本人は気が付いて無い

そして、横島と言う影であり支えを失った、新しい美神令子の人生がこの日から始まる


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