なんというか、微妙な空気が店内を包んでいた。

　どちらかというと少女たちが遠慮というか探るような感じで、令子はいつもと変わらないが。この程度で動じるような人物ではない。

　無論、少女たちとしては、横島の過去を聞いた時に聞いた人物である令子に興味津々であったが。

「へぇ、横島クンが喫茶店をねぇ」

　似合わないという言葉を令子は飲み込んだ。目の前の人物が自分の知る横島忠夫でないことくらい一目瞭然だ。なんというか、令子のパートナーである横島忠夫と別人なのだ。動きも仕草も瞳の奥に感じる魂も。

　それと店内に入ってから探るような少女たちの視線もとっくに気付いている。

　横島が淹れたコーヒーを一口飲むと、なにを語るでもなくじっと横島本人を見ていた。

「相変わらず波乱万丈な日々を送っているみたいっすね」

「そりゃあね、って言いたいところだけど。今日の仕事はちょっと特別だったのよ。それよりさ、あの子たちはなんなわけ？」

　神経が図太い令子であるが、いつまでも見世物のように見られているのにいささか不快さを感じていた。

「ああ、ウチの常連っすよ。まあ、いろいろとね」

　言葉を濁す横島に令子は察したような顔をした。少女たちもなんにんかは突撃したそうにしているものの、令子の雰囲気から察して空気の読めるあやかたちが止めていたりする。

「相変わらずねぇ。あんたも。まあ、いい歳した大人が生き方変えるってのは難しいわよね」

　そう言うと令子は立ち上がった。

　長居しないで帰ろうと思ったのだ。ここは自分のいる場所じゃない。そう感じたからだろう。

「今夜は止めておいたほうがいいっすよ。時間跳躍は連続すると時空間の乱れから失敗の確立上がりますし。ここ数日、こっちの時空間が特に乱れていますから。それに……あの世界からかなり遠い並行世界ですし。時間移動だけだと帰れませんよ」

「へっ？」

　隠し持っていた文珠で元の時間に帰ろうとした令子は、少し遠慮がちに説明する横島の言葉に固まった。

　確かに自身の知る横島とは別人だと察していたが、並行世界とは思わなかったらしい。

　実は超鈴音の時間移動と世界樹の魔力放出などがあり、本来の歴史では分岐点となるべき麻帆良祭とその後しばらくは時空間が乱れていた。令子がこの世界に飛ばされた一因でもある。

「どうするのよ！　私、明日までに戻らないと駄目なんだけど？」

「時空間が落ち着いたら送ってあげますよ。数日こっちにいても元の時間に戻ればいいでしょうし」

　帰れないのかと慌てたものの、横島の落ち着いた様子にホッとする令子。だが、その言葉に僅かに不快そうな顔をした。

「あんた、女心が分からないって言われない？」

　なにが不快なのかと首を傾げる横島に令子は愚痴るように言葉をかけると、少女たちが全力で頷いた様子が見えた。

　たかが数日、されど数日。時間軸さえ合わせればいいと考える横島の空気の読めなさに呆れていた。

　令子は自分の時間で明日までに帰りたいのだ。

「出来るのだろう？　今夜送ってやれ」

　呆れた様子なのはアナスタシアも同じだったらしい。

「多少リスクあってもいいなら出来るけど……」

「私、明日結婚式なのよ」

　なんで急ぐのかと言いたげな横島に、令子はため息交じりに事情を明かす。

　その言葉に横島は信じられないと言いたげに驚いた。