プロローグ
日曜日。小学生にとっては待ちに待った休日となる。
「忠夫、なにしてるんや?」
「逆立ち」
百合子がいつまでも起きて来ない息子を起こしに行くと、そこでは布団の上で逆立ちをする我が子を見つけた。
元々悪ガキではあったが、ここ数日はちょっと変わった行動や言動が目立つことを百合子は気にしつつ、朝から逆立ちする姿に考え過ぎかとため息を漏らした。
一方の横島は久しぶりの肉体にようやく慣れていた。未来ではすでに神魔のような霊的生命体となっていたため、突然の肉体に慣れない部分があった。それと使うことのない人外の力の確認と肉体への影響も探っている。
結果として人間のスペックを超える力を頻繁に使わない限りは、あまり問題はないと結論付けた。ただ昨日肉体で慣れない霊力を使ったので少しだるかったが。
「おとんは?」
「接待ゴルフよ。朝から楽しげに出かけたわ」
いつまでも逆立ちしてないで朝ごはんを食えと怒られたので朝食にする横島であるが、日曜日なのに父大樹がいない。百合子に聞いた横島であるが、ゴルフかと流して終わる。
特に用事はない。いつもの習慣である。
朝食を食べつつ朝のアニメを見るのが日課だ。ただし記憶にある懐かしのアニメなので展開がわかるのがちょっとつまらなかったが。
「ダラダラしてるんやないで。時間は有限なんやからな」
自身は自他ともに認める有能な女性である母は無駄を嫌う。宿題さえやれば遊んでいても怒らないが、目的もなく日曜にダラダラしていると小言が始まる。
「うーん。遊びに行ってくるわ」
午前中はなんとか誤魔化していたが、昼食を過ぎて昼寝でもしようものなら煩い。横島はたまらず家を出て当てもなく歩きだした。無駄と言うのならば、無駄から始まるような横島の人生は百合子との相性はあまり良くない。
元々型にはめるとどうしても上手くいかない横島は、百合子の教育と微妙に相性が悪かった。
町は平和そのものだった。
時折浮遊霊なんかを見かけるが、気付かないふりをしている。ゴーストスイーパー見習いから魔族との戦いに世界の終わりまで経験した横島は、正直、霊能も面倒ごともお腹いっぱいである。
近所の商店街に行くと、日曜日ということもあり賑わっていた。
高校時代はよく町でナンパしたなと思い出しつつ、そんな賑わう人々を目的もなく見ている。さすがに小学生がナンパするのもおかしい。さらに横島とて未来ではそれなりに大人になっていた。
まあ、賑やかなことは好きなので、こうして平和な街を眺めているだけでも楽しかったのだが。
「ただいま~」
結局ぶらぶらしただけで夕方となり家に帰ると玄関にはお客さんの靴があり、家の中から意外な人物の気配がした。
「忠夫君、昨日は本当にありがとう」
お客さんは昨日助けたクラスメートの美由紀と両親だった。どうやらわざわざお礼に来ていたらしい。
「あー、気にせんでください。間抜けな犯人が勝手に事故ったんで、股間を蹴り上げただけなんで」
明らかに好感度があがっているクラスメートの少女と彼女の両親に、横島は少し居心地が悪そうであった。
毛虫のごとく嫌われることに離れているが、こういうことは意外に慣れていない男である。
お礼にとケーキを持ってきてくれていたようで、それを一緒に食べるが、いまひとつ落ち着かない様子だった。
「いや~、このバカ息子が人様の役に立つとは思いませんでしたよ」
父大樹は一足先にゴルフから帰っていたが、ご機嫌な様子である。おそらくこっそりとやっているつもりの今日の競馬で勝ったんだろう。
美由紀の父親と母親にお酒を勧めて酒盛りを始めてしまう。
「忠夫、美由紀ちゃんとゲームでもしたらどうや」
「うん、そうだな。オレの部屋でゲームでもするか?」
大人同士で少し世間話をしていると、百合子は美由紀と横島をこの場から席を外させるように誘導した。
正直、あまり会話をしたこともないクラスメートなのだが、そう言われると嫌だとも言えない。ついでに百合子の意図も察していた。
「あれから、なんかあったか?」
自分の部屋に戻った横島はゲームを誘うが、美由紀はやったことがないからと楽しげに見ているだけだった。そんな美由紀に横島もまた気になっていたことを問いかける。
「……うん。今日も警察でいろいろと聞かれた」
ただの変質者ならいいのだが、なにか裏がありそうなのは横島も感じている。警察もその線で捜査をしていることを確認出来て、横島はホッとした。
「横島君、……夏子ちゃんと付き合っているの?」
「ゲホゲホ、はあ?」
会話が続かなく少し微妙な空気が続くが、ふと美由紀が口にした言葉に横島は驚き咳き込んだ。
「そんなわけあるか。夏子は銀ちゃんが好きなんだと思うぞ」
何故夏子のことをと目を白黒させる横島だが、美由紀は横島の答えに何故か少し首を傾げた。
横島は思い出していた。未来の時に東京へ転校する際に見た光景を。
屋上でふたり寄り添うようにしていた友人たちの姿を。
解けることのない誤解。勘違い。
それが横島の心の奥底に今も残っていた。
「忠夫、なにしてるんや?」
「逆立ち」
百合子がいつまでも起きて来ない息子を起こしに行くと、そこでは布団の上で逆立ちをする我が子を見つけた。
元々悪ガキではあったが、ここ数日はちょっと変わった行動や言動が目立つことを百合子は気にしつつ、朝から逆立ちする姿に考え過ぎかとため息を漏らした。
一方の横島は久しぶりの肉体にようやく慣れていた。未来ではすでに神魔のような霊的生命体となっていたため、突然の肉体に慣れない部分があった。それと使うことのない人外の力の確認と肉体への影響も探っている。
結果として人間のスペックを超える力を頻繁に使わない限りは、あまり問題はないと結論付けた。ただ昨日肉体で慣れない霊力を使ったので少しだるかったが。
「おとんは?」
「接待ゴルフよ。朝から楽しげに出かけたわ」
いつまでも逆立ちしてないで朝ごはんを食えと怒られたので朝食にする横島であるが、日曜日なのに父大樹がいない。百合子に聞いた横島であるが、ゴルフかと流して終わる。
特に用事はない。いつもの習慣である。
朝食を食べつつ朝のアニメを見るのが日課だ。ただし記憶にある懐かしのアニメなので展開がわかるのがちょっとつまらなかったが。
「ダラダラしてるんやないで。時間は有限なんやからな」
自身は自他ともに認める有能な女性である母は無駄を嫌う。宿題さえやれば遊んでいても怒らないが、目的もなく日曜にダラダラしていると小言が始まる。
「うーん。遊びに行ってくるわ」
午前中はなんとか誤魔化していたが、昼食を過ぎて昼寝でもしようものなら煩い。横島はたまらず家を出て当てもなく歩きだした。無駄と言うのならば、無駄から始まるような横島の人生は百合子との相性はあまり良くない。
元々型にはめるとどうしても上手くいかない横島は、百合子の教育と微妙に相性が悪かった。
町は平和そのものだった。
時折浮遊霊なんかを見かけるが、気付かないふりをしている。ゴーストスイーパー見習いから魔族との戦いに世界の終わりまで経験した横島は、正直、霊能も面倒ごともお腹いっぱいである。
近所の商店街に行くと、日曜日ということもあり賑わっていた。
高校時代はよく町でナンパしたなと思い出しつつ、そんな賑わう人々を目的もなく見ている。さすがに小学生がナンパするのもおかしい。さらに横島とて未来ではそれなりに大人になっていた。
まあ、賑やかなことは好きなので、こうして平和な街を眺めているだけでも楽しかったのだが。
「ただいま~」
結局ぶらぶらしただけで夕方となり家に帰ると玄関にはお客さんの靴があり、家の中から意外な人物の気配がした。
「忠夫君、昨日は本当にありがとう」
お客さんは昨日助けたクラスメートの美由紀と両親だった。どうやらわざわざお礼に来ていたらしい。
「あー、気にせんでください。間抜けな犯人が勝手に事故ったんで、股間を蹴り上げただけなんで」
明らかに好感度があがっているクラスメートの少女と彼女の両親に、横島は少し居心地が悪そうであった。
毛虫のごとく嫌われることに離れているが、こういうことは意外に慣れていない男である。
お礼にとケーキを持ってきてくれていたようで、それを一緒に食べるが、いまひとつ落ち着かない様子だった。
「いや~、このバカ息子が人様の役に立つとは思いませんでしたよ」
父大樹は一足先にゴルフから帰っていたが、ご機嫌な様子である。おそらくこっそりとやっているつもりの今日の競馬で勝ったんだろう。
美由紀の父親と母親にお酒を勧めて酒盛りを始めてしまう。
「忠夫、美由紀ちゃんとゲームでもしたらどうや」
「うん、そうだな。オレの部屋でゲームでもするか?」
大人同士で少し世間話をしていると、百合子は美由紀と横島をこの場から席を外させるように誘導した。
正直、あまり会話をしたこともないクラスメートなのだが、そう言われると嫌だとも言えない。ついでに百合子の意図も察していた。
「あれから、なんかあったか?」
自分の部屋に戻った横島はゲームを誘うが、美由紀はやったことがないからと楽しげに見ているだけだった。そんな美由紀に横島もまた気になっていたことを問いかける。
「……うん。今日も警察でいろいろと聞かれた」
ただの変質者ならいいのだが、なにか裏がありそうなのは横島も感じている。警察もその線で捜査をしていることを確認出来て、横島はホッとした。
「横島君、……夏子ちゃんと付き合っているの?」
「ゲホゲホ、はあ?」
会話が続かなく少し微妙な空気が続くが、ふと美由紀が口にした言葉に横島は驚き咳き込んだ。
「そんなわけあるか。夏子は銀ちゃんが好きなんだと思うぞ」
何故夏子のことをと目を白黒させる横島だが、美由紀は横島の答えに何故か少し首を傾げた。
横島は思い出していた。未来の時に東京へ転校する際に見た光景を。
屋上でふたり寄り添うようにしていた友人たちの姿を。
解けることのない誤解。勘違い。
それが横島の心の奥底に今も残っていた。