プロローグ
土曜の午後は子供たちにとって楽しい時間だ。
季節は春。すでに桜の花は終わっているが、外で遊ぶにはちょうどいい頃になる。
横島は公園の芝生の上で寝転び微睡んでいた。吹き抜ける風はまだ少し冷たいが、暖かい太陽の日差しが気持ちいいのだ。
「横っち、遊ぼうぜ」
「おう、そうだな」
中身は半分大人なので多少だが落ち着きはある。とはいえ周りは小学三年生の子供たちなので元気いっぱいだった。
横島と銀一の家にはテレビゲームもあるが、あまりゲームばかりしていると親たちがいい顔をしないという時代でもある。そのため今日は公園に来ていた。
運動は割りと得意だが、勉強はそこそこ。手先が器用という特技があったが、横島少年はどこにでもいる普通の子でしかなかった。つい先日までは。
一方の銀一は勉強も運動もよく出来た。まあそれだけ真面目にやるところはやっているのだが。
この日は数人の男子たちと一緒に野球をしていた。この当時はサッカーも流行りつつあったが、時代的に野球が根強い人気があった。
太陽が西の空に傾くと、ひとりまたひとりと帰り野球が出来なくなるとお開きになる。
「小竜姫さま、元気にしてっかなぁ」
「しょうりゅうきさま?」
今日はやけに赤い西の空を眺めていると、ふと過去を思い出してしまい呟いた横島に銀一は不思議そうな顔をした。聞いたこともない名前だったからだろう。
ルシオラはまだ存在すらしていない。そんな世界で夕日を見て思い出したのは小竜姫のことだった。
未来では半人半魔になった影響で十年ほど妙神山にて暮らしていた横島は、よく妙神山から山々に沈む夕日を見ていたことを思い出す。
人界であり人界ではない場所。神族のテリトリーである妙神山にひとりでいることが多かった小竜姫と横島は結構いい仲になっていた。
寂しいと思ったことはないが、充実した日々とも言えなかった。それは小竜姫が横島に明かした本音だった。
「いや、なんでもない」
割と変なことを口走る癖がある横島と、まだ子供の銀一だけに横島のつぶやきを銀一は聞き流して終わる。
尽きることのない馬鹿話をしながら帰路に着くが……。
「助けてー!」
ふたりの目の前で黒いワゴン車に無理矢理に乗せられる子供が見えた。
「あれ……美由紀じゃ……」
子供は横島と銀一のクラスメートだった。目の前の光景が信じられないのか唖然とする銀一であるが、横島は未来の自分の古い記憶を呼び起こしていた。
小学三年の春に、突如別れも告げずに転校したクラスメートがいたことを思い出したのだ。
「銀ちゃん、警察に連絡して。ナンバーは大阪……」
「ああ……」
親でも知り合いでもないだろう。美由紀という少女は本気で泣きそうな顔をして暴れていた。
横島は銀一に車のナンバーを伝えると、そのまま車を追いかけるように走った。
「ちくしょう、子供の身体キツイわ!」
今の横島は未来の横島とこの時代の横島が融合した形ではあるが、肉体は人間のままであった。未来の横島はすでに肉体が神魔のように霊体ベースとなっていたのだが、この時代に来てからは霊体ベースにならないように人間の霊力以外は使わないように抑えていた。
そのため走る車に追いつけるほどの体力なんてあるはずがない。千里眼で車の中を見ると、美由紀は乱暴されかけていた。
「仕方ねえ!」
警察が動いても捕まえるまでに時間がかかる。少なくとも少女が無事でいる保障はなかった。
必要以上に目立って歴史を変えたくはないので横島は霊力も使いたくなかったが、このままでは逃げられてしまう。
サイキックソーサを針状にしたもの。サイキックニードルとでもい言うべきか。それを幾つか作り出すと車のタイヤ目掛けて飛ばした。最低限の力と介入で済ませるに越したことはない。
するとタイヤはすぐにパンクしてしまいワゴン車はハンドルを誤り、ガードレールに激突した。それでも車を動かして逃げようとするも、今度はワゴン車を追い越そうとしていた車にぶつかってしまう。
「おい! やばいぞ!」
「逃げるぞ!」
ワゴン車から降りて来たのは覆面をした二人組の男だった。ぶつけられた車はいかにも怪しい男たちと抱えられた少女に驚いているのが見えた。
「逃がすかっちゅうの!」
身体はおっさんで中身が子供というアニメがあったなと思い出しながら、横島はホッとしていた。少なくとも逃げられる心配は消えた。
そして、大人とはいえ人間ふたりでは横島の敵ではなかった。
「なんだ、このガキ!」
所詮子供と侮る男たちのひとり、少女を抱えたほうの股間を遠慮なく蹴り上げた横島は少女を救うことに成功していた。
季節は春。すでに桜の花は終わっているが、外で遊ぶにはちょうどいい頃になる。
横島は公園の芝生の上で寝転び微睡んでいた。吹き抜ける風はまだ少し冷たいが、暖かい太陽の日差しが気持ちいいのだ。
「横っち、遊ぼうぜ」
「おう、そうだな」
中身は半分大人なので多少だが落ち着きはある。とはいえ周りは小学三年生の子供たちなので元気いっぱいだった。
横島と銀一の家にはテレビゲームもあるが、あまりゲームばかりしていると親たちがいい顔をしないという時代でもある。そのため今日は公園に来ていた。
運動は割りと得意だが、勉強はそこそこ。手先が器用という特技があったが、横島少年はどこにでもいる普通の子でしかなかった。つい先日までは。
一方の銀一は勉強も運動もよく出来た。まあそれだけ真面目にやるところはやっているのだが。
この日は数人の男子たちと一緒に野球をしていた。この当時はサッカーも流行りつつあったが、時代的に野球が根強い人気があった。
太陽が西の空に傾くと、ひとりまたひとりと帰り野球が出来なくなるとお開きになる。
「小竜姫さま、元気にしてっかなぁ」
「しょうりゅうきさま?」
今日はやけに赤い西の空を眺めていると、ふと過去を思い出してしまい呟いた横島に銀一は不思議そうな顔をした。聞いたこともない名前だったからだろう。
ルシオラはまだ存在すらしていない。そんな世界で夕日を見て思い出したのは小竜姫のことだった。
未来では半人半魔になった影響で十年ほど妙神山にて暮らしていた横島は、よく妙神山から山々に沈む夕日を見ていたことを思い出す。
人界であり人界ではない場所。神族のテリトリーである妙神山にひとりでいることが多かった小竜姫と横島は結構いい仲になっていた。
寂しいと思ったことはないが、充実した日々とも言えなかった。それは小竜姫が横島に明かした本音だった。
「いや、なんでもない」
割と変なことを口走る癖がある横島と、まだ子供の銀一だけに横島のつぶやきを銀一は聞き流して終わる。
尽きることのない馬鹿話をしながら帰路に着くが……。
「助けてー!」
ふたりの目の前で黒いワゴン車に無理矢理に乗せられる子供が見えた。
「あれ……美由紀じゃ……」
子供は横島と銀一のクラスメートだった。目の前の光景が信じられないのか唖然とする銀一であるが、横島は未来の自分の古い記憶を呼び起こしていた。
小学三年の春に、突如別れも告げずに転校したクラスメートがいたことを思い出したのだ。
「銀ちゃん、警察に連絡して。ナンバーは大阪……」
「ああ……」
親でも知り合いでもないだろう。美由紀という少女は本気で泣きそうな顔をして暴れていた。
横島は銀一に車のナンバーを伝えると、そのまま車を追いかけるように走った。
「ちくしょう、子供の身体キツイわ!」
今の横島は未来の横島とこの時代の横島が融合した形ではあるが、肉体は人間のままであった。未来の横島はすでに肉体が神魔のように霊体ベースとなっていたのだが、この時代に来てからは霊体ベースにならないように人間の霊力以外は使わないように抑えていた。
そのため走る車に追いつけるほどの体力なんてあるはずがない。千里眼で車の中を見ると、美由紀は乱暴されかけていた。
「仕方ねえ!」
警察が動いても捕まえるまでに時間がかかる。少なくとも少女が無事でいる保障はなかった。
必要以上に目立って歴史を変えたくはないので横島は霊力も使いたくなかったが、このままでは逃げられてしまう。
サイキックソーサを針状にしたもの。サイキックニードルとでもい言うべきか。それを幾つか作り出すと車のタイヤ目掛けて飛ばした。最低限の力と介入で済ませるに越したことはない。
するとタイヤはすぐにパンクしてしまいワゴン車はハンドルを誤り、ガードレールに激突した。それでも車を動かして逃げようとするも、今度はワゴン車を追い越そうとしていた車にぶつかってしまう。
「おい! やばいぞ!」
「逃げるぞ!」
ワゴン車から降りて来たのは覆面をした二人組の男だった。ぶつけられた車はいかにも怪しい男たちと抱えられた少女に驚いているのが見えた。
「逃がすかっちゅうの!」
身体はおっさんで中身が子供というアニメがあったなと思い出しながら、横島はホッとしていた。少なくとも逃げられる心配は消えた。
そして、大人とはいえ人間ふたりでは横島の敵ではなかった。
「なんだ、このガキ!」
所詮子供と侮る男たちのひとり、少女を抱えたほうの股間を遠慮なく蹴り上げた横島は少女を救うことに成功していた。