IF・弓かおり
それは運命の女神が、ちょっと悪戯をした世界だった。
町がクリスマス一色に染まるこの日、横島はとある駅でソワソワしていた。
普段とは違い、明らかにおしゃれを意識した服である。
「お待たせしましたわ」
現れたのは弓かおり。六道女学院の一年である。
「おおっ、綺麗っすね。よく似合ってますよ」
少しキツめの顔立ちであるかおりだが、彼女もまたおしゃれをしていて、横島が嬉しそうに褒めると照れている様子も微かに見える。
ふたりが出会ったのは、おキヌが生き返ってしばらく美神事務所を開けた頃だった。
かおりが街で絡んで来たナンパ野郎に霊能力を使って撃退してしまったところに警察が来てしまい、捕まる寸前のところを偶然通りかかった横島が上手く誤魔化したのがきかっけになる。
紆余曲折の末、なんとなく時々会って映画を見たり食事をしたりしている関係である。
「今日はどちらに?」
「魔法料理の店っすよ」
クリスマスイブのこの日、横島は一世一代の賭けに出るつもりでかおり食事に誘っていた。しかもこの日のためにひと月、生活をぎりぎりまで節約してのことである。
「もしかして魔法料理魔鈴ですか?」
「そうっすよ」
「一度行ってみたかったんですわ」
「そりゃ、良かった!」
恋人同士がいちゃつく街を、横島とかおりは付かず離れずの微妙な距離で歩いて行く。
ふたりは手を握ることすらまだしていない。厳密にいえば友人でしかないので当然だが。
「横島さん!? 弓さん!?」
横島とかおりはそのまま最寄りの駅から魔鈴の店に歩き店の中に入るが、そこで運命の悪戯が二人を待っていた。
同じ店に一足先に入っていたおキヌと一文字魔理と、ばったりと出くわしてしまったのだ。
そう、本来の歴史ならばサバイバル合コンとなるはずの日である。
ただしこの世界ではかおりが横島との先約があったのでそこに加わっておらず、また横島もおキヌの合コンの誘いを断っていた経緯がある。
「おキヌちゃん?」
「えっ、知り合いですの!?」
ちなみにこの世界の横島は六道女学院のクラス対抗戦に行ってないので、かおりとは学校で会ったことはない。
実はおキヌとかおりがクラスメートだったことも横島は知らず、またかおりは横島が美神事務所の人間であることもまだ知らなかった。
横島は予期せぬ場所でおキヌと出会ったことに驚いていたが、かおりは予期せぬ繋がりに驚いてしまう。
「弓、クリスマスは家で過ごすんじゃなかったのか?」
「ええ、そのつもりでしたわ。ただ、食事だけでもどうしてもと泣きつかれまして。モテるのも大変なのですわ」
令子やおキヌには隠していたかおりの存在が知られてまずいことになったと困惑する横島を尻目に、魔理は横島をチラ見すると、かおりにこんな男とデートかと言いたげな嫌味を口にする。
日頃自慢やら嫌味をいうかおりに対する微かな仕返しのつもりなのだろう。
当然かおりも学校での立場というものがあり、見栄というか張り合ってしまう。
「アハハ、そういうことなんだ」
そんなかおりの言葉にがっくりと落ちこんだのは横島だった。
横島としてはかおりも楽しみにしてくれていると思っていたが、義理で付き合ったと言いたげなかおりに素直にショックを受けていた。
「横島さん……、そうだ。せっかくですから一緒に食事をしませんか?」
そんな横島をおキヌは心配げに見つめて慰めるように声を掛けた。
「ええ、私は構いませんわ」
おキヌとしては落ち込む横島を慰めたいとの、思いやりからの言葉であったのだろう。
かおりもまた、プライドから、そう言われると嫌だとは言えない性分だった。
もっとも横島がおキヌはと親しい様子であることに、かおりは密かに苛立ち不快に感じていて、それも相まって余計に素直になれない感じであったが。
おキヌも魔理もあまり女性としてのスキルは高くない。もう少しかおりの様子をしっかり見ていれば、相当気合が入っていることに気付いただろう。
無論、横島にもそんな女心がわかるはずもなく、流されるままにおキヌたちと一緒に食事をすることになる。
町がクリスマス一色に染まるこの日、横島はとある駅でソワソワしていた。
普段とは違い、明らかにおしゃれを意識した服である。
「お待たせしましたわ」
現れたのは弓かおり。六道女学院の一年である。
「おおっ、綺麗っすね。よく似合ってますよ」
少しキツめの顔立ちであるかおりだが、彼女もまたおしゃれをしていて、横島が嬉しそうに褒めると照れている様子も微かに見える。
ふたりが出会ったのは、おキヌが生き返ってしばらく美神事務所を開けた頃だった。
かおりが街で絡んで来たナンパ野郎に霊能力を使って撃退してしまったところに警察が来てしまい、捕まる寸前のところを偶然通りかかった横島が上手く誤魔化したのがきかっけになる。
紆余曲折の末、なんとなく時々会って映画を見たり食事をしたりしている関係である。
「今日はどちらに?」
「魔法料理の店っすよ」
クリスマスイブのこの日、横島は一世一代の賭けに出るつもりでかおり食事に誘っていた。しかもこの日のためにひと月、生活をぎりぎりまで節約してのことである。
「もしかして魔法料理魔鈴ですか?」
「そうっすよ」
「一度行ってみたかったんですわ」
「そりゃ、良かった!」
恋人同士がいちゃつく街を、横島とかおりは付かず離れずの微妙な距離で歩いて行く。
ふたりは手を握ることすらまだしていない。厳密にいえば友人でしかないので当然だが。
「横島さん!? 弓さん!?」
横島とかおりはそのまま最寄りの駅から魔鈴の店に歩き店の中に入るが、そこで運命の悪戯が二人を待っていた。
同じ店に一足先に入っていたおキヌと一文字魔理と、ばったりと出くわしてしまったのだ。
そう、本来の歴史ならばサバイバル合コンとなるはずの日である。
ただしこの世界ではかおりが横島との先約があったのでそこに加わっておらず、また横島もおキヌの合コンの誘いを断っていた経緯がある。
「おキヌちゃん?」
「えっ、知り合いですの!?」
ちなみにこの世界の横島は六道女学院のクラス対抗戦に行ってないので、かおりとは学校で会ったことはない。
実はおキヌとかおりがクラスメートだったことも横島は知らず、またかおりは横島が美神事務所の人間であることもまだ知らなかった。
横島は予期せぬ場所でおキヌと出会ったことに驚いていたが、かおりは予期せぬ繋がりに驚いてしまう。
「弓、クリスマスは家で過ごすんじゃなかったのか?」
「ええ、そのつもりでしたわ。ただ、食事だけでもどうしてもと泣きつかれまして。モテるのも大変なのですわ」
令子やおキヌには隠していたかおりの存在が知られてまずいことになったと困惑する横島を尻目に、魔理は横島をチラ見すると、かおりにこんな男とデートかと言いたげな嫌味を口にする。
日頃自慢やら嫌味をいうかおりに対する微かな仕返しのつもりなのだろう。
当然かおりも学校での立場というものがあり、見栄というか張り合ってしまう。
「アハハ、そういうことなんだ」
そんなかおりの言葉にがっくりと落ちこんだのは横島だった。
横島としてはかおりも楽しみにしてくれていると思っていたが、義理で付き合ったと言いたげなかおりに素直にショックを受けていた。
「横島さん……、そうだ。せっかくですから一緒に食事をしませんか?」
そんな横島をおキヌは心配げに見つめて慰めるように声を掛けた。
「ええ、私は構いませんわ」
おキヌとしては落ち込む横島を慰めたいとの、思いやりからの言葉であったのだろう。
かおりもまた、プライドから、そう言われると嫌だとは言えない性分だった。
もっとも横島がおキヌはと親しい様子であることに、かおりは密かに苛立ち不快に感じていて、それも相まって余計に素直になれない感じであったが。
おキヌも魔理もあまり女性としてのスキルは高くない。もう少しかおりの様子をしっかり見ていれば、相当気合が入っていることに気付いただろう。
無論、横島にもそんな女心がわかるはずもなく、流されるままにおキヌたちと一緒に食事をすることになる。
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