番外編・ネギまIN横島~R~(仮)

《ハッピーエンドのその先は》


「では採決を取りたいと思います。 本案に賛成の方は起立して下さい」

この日麻帆良学園生徒会の静かな会議室では少し重苦しい空気が支配していた。

会議の進行役の生徒会役員の採決を取るとの言葉に、私は賛成として起立する。


「では本案は賛成多数で可決します。 予算に関しては予備費を当てることにして一ヶ月後の体育祭までには事務局を設置します。 皆様方におかれましては、今後とも御協力のほどをお願い申し上げます」

議案が圧倒的賛成多数で可決されると会議の参加者からは安堵の声が漏れていた。

実は九月も半ばに入り学園では体育祭の準備や練習が進むこの日になって、麻帆良学園生徒会では今年の麻帆良祭以降最大の懸案だったストーカー対策がようやく決まったのだから安堵するのも当然だが。

事の始まりは一部の男子生徒が一人の女子中学生のファンを称したことからであった。

麻帆良学園では昔から年代を越えた交流が盛んでありそれはより多くの経験を積むことでは有意義なことだが、今回のように一歩間違えると問題が拡大しやすいとの性質も持っている。

まるでアイドルや芸能人のように被害者を扱い、勝手にファンを自称したまてはギリギリで問題にならなかったが、彼らの過ちは被害者に自分達の理想を押し付けたことだろう。

我々生徒会や風紀委員会も彼らの行動には以前から注意をしていたが、それでも被害者が予想以上に悩んでることに気付けなかったことは問題だった。

ただこれはあまり口外出来ないことだが実は彼女のストーカーについては生徒会側ではまだ許容範囲だと見ていて、生徒会や風紀委員会で以前から問題視していたのは本件ではなく別の集団だったとの事情がある。


「出来ればあの集団もなんとかしたいんだけどね」

「双方共に合意である以上は規制はしたくない。 まあ野良試合の注意は続ける必要があるけど」

その集団とは女子中等部二年の古菲君と彼女を倒そうとする武闘派サークルの連中のことだ。

毎日のように朝から晩まで野良試合をしてる彼女達を問題視する人達は多い。

しかしここで難しいのは彼女達が純粋に己の力量や技術を競い高めて勝負してるとの認識しかないからだろう。

正直取り返しのつかない怪我などをする前に規制しようとの意見は去年からあったが、当人達が納得してることを規制するのはなかなか難しい。


だが厄介なことに今回の問題になったストーカー達は、そんな彼女達と自分達を比べていて自分達はまだ理性的であり何が悪いのかと不満を口にした生徒が多かったことだろう。

中には被害者少女と彼女の為に一計を案じた男性に対し、冗談も分からないのかと文句を言う者さえいたのだから呆れるしかない。

まあそんな彼らも時が過ぎて一般生徒や保護者達からの厳しい意見が聞かれるに従ってほとんどは大人しくなったが。

学園や生徒会や風紀委員会には彼らに対する処罰の甘さを批判する意見が圧倒的に多く、彼らを擁護する意見は少数派だった。

そして極めつけはストーカーの一部が被害者を庇った男性に対して誹謗中傷しようとしたことだ。

この件に関しては事前に情報を掴んでいたので学園側とも協力して阻止出来たが、万が一阻止出来なかったら学園を根本から揺るがす大事件になっただろう。

結果として生徒会では風紀委員会や報道部など関係各位と共同で対策をすることになった。

まあ対策と言っても今回問題になったストーカー達に関しては一応の決着を付けたので、問題は今後の対策に重点を置かれている。

具体的な対策としてイジメ及びストーカー対策事務局の新たな設置と、匿名での通報と相談の受付システムの構築。

加えて被害者救済の為のボランティアでの相談員やカウンセラーの確保などが基本となる。

ただここで議論を呼んだのが加害者の扱いであった。

一部には被害者の同意の元で加害者氏名及び被害の内部を公表するべきとの意見も強固にあったが、流石にそこまでいくとやり過ぎだとの声もありこれは見送られた。

しかし正直なところ生徒会や風紀委員が被害者擁護を積極的にすれば情報は嫌でも学園内には流れるので、加害者が誰かはすぐに分かることだった。

後は生徒一人一人のモラルの問題でもあり、事務局では率先して加害者を守る気はないということで落ち着く。

最終的に加害者生徒に関しての対応は教師及び学園の領分であり、生徒会としてもあまり出過ぎたことは出来ないとの事情もある。

まあ今回のストーカー達の末路を見ても分かるが、現状の麻帆良学園ではストーカーやイジメの加害者を簡単に許すような甘い雰囲気はないだけに、加害者に対しては当面は様子見というところが落し所なのだろう。

要はストーカーやイジメなどを生徒会や風紀委員会が把握して、率先して被害者擁護に回ることが重要だとの結論であった。


「それにしても、あのマスターも一々やることが派手だよな。 もう少し後始末する側のことも考えてほしいよ」

「いや今回はあの連中を放置した俺達の責任だよ。 類似の嫌がらせを全く把握してなかったからな」

そんな会議が終わるとここしばらく議論していた案件がようやく片付いたことで会議に参加してた面々は一様にホッとしていたが、周りからは今回の一件でストーカー達を撃退した名物マスターについて本音をこぼしている者もいた。

結果的に彼の行動は被害者を守り学園に新たな被害者救済のシステムを作るきっかけにはなったが、一歩間違えれば麻帆良学園を根底から覆す大事件になるところだったのだから。

私は彼を直接は知らないが、正直生徒会の人間としては一言相談して欲しかったとは思ってしまう。

ただ事後の対応を見れば、彼も問題を悪化させたくないことだけは確かなようで助かったとも言えるが。

願わくば今回の一件を教訓に、ストーカーやイジメに悩む生徒が一人でも少なくなればと思う。

何事も完璧なことなど存在しないし今回の決定も万全とは言えないだろうが、それでも一歩進んだことは確かだった。

とりあえず今日は私もグッスリと眠れるだろう。



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