番外編・ネギまIN横島~R~(仮)

《一夜の夢の傍らで》

「麻帆良亭が一夜限りの復活か……」

私がそれを知ったのは、麻帆良亭の一夜限りの復活の数日後に兄弟子から聞いてだった。


「まさか先生がまた店をやるなんてな」

正直信じられなくて何かの間違いかと思ったが、どうやら本当に坂本先生が一夜だが店を再開したらしい。

私は先生の最後弟子で、十年ほど麻帆良亭で修業した経験がある。

麻帆良亭の味に惚れ込み高校を卒業してから十年修業したが、私が独立してから数年で先生は店を閉めると突然言い出した。

その話を聞いた時に先生の元を尋ねたのは私だけではないと聞く。

兄弟子の一人は麻帆良ホテルで洋食の総料理長をしているが、辞めるならば店を継ぎたいと兄弟子は直接頼んだらしい。

現在私は麻帆良を離れて故郷で麻帆良亭の味を受け継いだ洋食屋を営んでいるが、先生が私でもいいと言うならば私も麻帆良亭を継ぎたいとすら思った。

兄弟子ほど優秀ではないので継がせて欲しいとは言い出せなかったが、そのつもりで尋ねたし先生も理解していたと思う。


『麻帆良亭は閉めるべき時期なんだ。 お前達が私の味を継いでくれたからこそ辞められるんだ』

店を尋ねた私に先生はそう言って修業時代には見せなかったほど穏やかな笑顔を見せてくれた。

その言葉は嘘ではないが本心ではないと私は理解していたが、それ以上は何も言えなくなってしまった。

私だけではなく何人かいる兄弟子達も先生がずっと店の伝統と未来に悩んでいたのは気が付いていたし、それは麻帆良亭の誇りであると同時に重荷だったのだとも感じている。

あまり多くを語らぬ先生に代わり女将さんが帰り際に少し話してくれたが、ずっと夫婦で考えていたことらしい。

私は最後の一週間だけ半ば無理矢理に手伝いに店に戻ったが、先生と女将さんは本当に複雑だったのだと痛いほど感じた。

まさかあの先生と女将さんがまた店をやるとはあの時は思いもしなかった。


「そういえば麻帆良亭を若い料理人がそのまま喫茶店にしたって聞いたけど……」

麻帆良亭が閉店した後に私はあまり興味は無かったが、風の噂で店をそのまま喫茶店にした若い料理人がいるとは聞いた記憶がある。

先生と女将さんが再び店を開いたのならば、わざわざ店を借りる為にその若い料理人の元を訪れたのだろうか?

引退した先生を再び厨房に立たせたのが何なのか私は知りたかったし、麻帆良亭が復活したのならばもう一度行きたかったのが本音だった。

一日でも復活させるならば、せめて一声かけて欲しかったと思うのは私のワガママなのだろうか。

そもそも夏に先生と女将さんが私の店を訪れてくれた時には復活させるような気配は全く無かった。


「年末年始に会いに行ってみようかな」

今年もあと数週間で終わるが、年末年始の休みを利用して先生に会いに行ってみようと思う。

何があったのか知りたかったし、もし次があるならば私は是非駆け付けたいと思うのだから。



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