番外編・ネギまIN横島~R~(仮)

《とある立派な魔法使いの独白》


この日メガロメセンブリアでは新オスティア総督を任期途中で解任された、クルト・ゲーデルの話題で持ち切りだった。

ニュースは何処も彼の話題ばかりで様々な原因が推測されているが、流れてる情報はたいしたものではない。


「やはりあの男はダメだったか」

今の元老院で彼ほど国民のことと国の未来を考えてる議員はそうは居ないが、残念ながら彼は政治家向きではないと私は思う。

彼は政治家というよりは革命家の本質を持つ人間だ。

政治家が越えてはいけないラインを彼は躊躇なく越えてしまうのだから。

尤も歴史あるメガロメセンブリア元老院も現在では腐敗が酷く、同じようにラインを越えている議員は少なくない。

彼と他の議員の違いは私利私欲でラインを越えたかどうかの違いだが、端から見てると違いを理解するのは難しい。


「あの男はもっと歴史に学ぶべきだな」

旧世界の言葉に《賢者は歴史に学び愚者は経験に学ぶ》という言葉があるが、彼は歴史上に腐るほど居た革命家と同じ道を辿っている。

自分は違うと彼は言うだろうが、周りから見れば同じにしか見えない。

革命ではどれだけの血が流れ混乱が生まれるか彼は理解してるのだろうか?

それに彼は理解してないが、長い元老院の歴史で魔法世界の欠陥をどうにかしようと考えた人間は彼だけではないのだ。

だが誰一人として解決に導いた者は居ない。


「結局は彼もあの愚か者達の仲間だったということか」

私は世界を救うタイミングは、二十年前に一度だけあったと考えている。

しかし鍵を握るべき英雄達は、何故か世界を救うことから逃げ出している。

何故彼らはあの時に真実を訴え、世界を纏めなかったのだろう。

それほど世界が人々が信頼出来なかったのだろうか。

世界を救うのは少数の英雄でも革命家でもなく、この世界に住む一人一人の意志なのだと何故英雄達は気付かなかったのだろうか。


最早この世界の終焉は止められないだろう。

しかしそれを選んだのは我々この世界に生きる者達だ。

クルト・ゲーデルは旧世界への帰還を考えてるようだが、仮に成功しても旧世界が受け入れるのは裕福な者や技術者や知識人くらいだろう。

魔法至上主義を掲げるこの国の人間が旧世界に大量に移住すれば混乱するのが目に見えている。

旧世界も自分達の世界と国を守らねばならぬ以上、我々全てを受け入れるなど有り得ないことなのだ。

長きにわたる魔法使いと旧世界権力との戦いは、我々の敗北に終わる運命だったのかもしれない。

いやそもそもこの考えも我々の立場から見た勝手な歴史だったな。

我々の祖先が旧世界のヨーロッパで争っていただけで、世界の大半はもっと上手く共存していた。

旧世界の大半の人々からすれば、ヨーロッパの白人の内輪揉めでしかないのかもしれない。

後は私の寿命が尽きるのが早いか、世界の寿命が尽きるのが早いかの僅かな違いしかないだろう。



だがそれでも奇跡を願う自分が居ることに、私は人間の愚かさと可能性を感じずにはいられない。

いつの日か世界の人々に真実を伝え、共に運命と戦おうと叫ぶ者が出て来てほしいと願ってしまう。

あのナギ・スプリングフィールドのように、人々や世界に希望と未来を見せることが出来るような本当の愚か者が現れるのを今日も待っていた。



5/17ページ
スキ