番外編・ネギまIN横島~R~(仮)
《歴史の片隅で》
俺は弱小サークルであるパティシエ限定男子スイーツ研究会に所属する大学三年の男だ。
今は体育祭の打ち上げで仲間の一人の料理大会三位入賞を祝う飲み会をしている。
「ほら元気だせよ。 三位でも立派な成績じゃないか」
本来三位入賞は大健闘であり、仲間の男性も長年の努力が報われたはずなのだが彼のテンションは最悪と言っていいほど低い。
まるでお通夜か残念会のように落ち込む仲間を、俺や周りの仲間達が励ましながら酒を飲んでいる。
「俺は子供の時からパティシエになる修行してたんだぞ! それがあんな子供に……」
あまりにも落ち込む彼に仲間は面倒になったのか酒を飲ませてごまかし始めたが、厄介なことに彼は絡み酒になり始めた。
彼がここ数年打倒クイーンを掲げ人一倍努力していたのは俺達は良く知っているが、残念なことに彼の性格はマイナス思考でいいとは言えない。
今回の大会でも決勝直前に決勝進出者である中等部の子に嫌みを言ってしまったようで、逆にクイーンに撃沈されたとお酒の勢いで暴露していく。
嫌みを言った原因は自分の積み重ねた努力とプライドをぶち壊すような、少女の無邪気な笑顔が気に入らなかったらしい。
根は悪い人間ではないのだがパティシエに人生を賭けてる彼は、パティシエを甘く考えるような他人にまで厳しいという厄介な性格をしている。
彼は今年大学四年であり年齢的にはクイーン新堂美咲と同年齢だ。
自由に舞うようにスイーツを作るクイーンに対し、彼はどこまでも己と他人に厳しい昔かたぎの職人のような人間である。
その価値観は水と油で彼はクイーンを目の敵にしていたが、彼女はそんな彼にですら優しく微笑むのだから逆に彼の立場がない。
「でも実際にあの子凄いよ。 俺達なんて何年出場しても予選敗退なのに初出場で優勝なんだから」
「あんな子供に何が分かる!!」
今年の料理大会はスイーツ部門の優勝者であるクイーン新堂美咲と、新たな挑戦者近衛木乃香の話題で持ち切りだった。
実際に事前予想だと彼女は注目選手だったが、それは彼女の実力と言うよりは彼女の師匠とも恋人とも言われる男性の実力と、昨年初出場にして初優勝した天才超鈴音の再来かと騒がれたからだ。
正直予選が始まるまでは俺達の眼中にすらなかったし、同じ業界を目指す者の大半は似たようなものだったろう。
ただそれでも初出場で優勝した彼女の実力を俺達は認めない訳にはいかない。
直接負けた仲間はやはり気に入らないらしいが、偶然であれまぐれであれクイーンに一度は並んだ実力は本物だった。
「そういえばダチに聞いたんだけどさ、クイーンは大会前からあの子のこと気にしてたって話だよ。 あれほど楽しそうに料理をする子は珍しいってね」
あの子には俺達にはない何かがある、あの華麗なクイーンのように。
そう思う俺だったが仲間の一人からクイーンが大会前からあの子を注目していたと聞くと何故か納得してしまう。
今思えばクイーンは自身の予選終了後、真っ先にあの子に会いに行っていた。
それに準決勝では並み居る先輩達に気後れして出遅れたようなあの子をさらりと助けてもいる。
「あの人も楽しそうに調理するからなぁ」
真剣勝負の料理大会で、本当に楽しそうに料理をする人間などなかなか居るものではない。
そういう意味ではあの子はクイーンに似ていた。
仲間と同じくクイーンにとっても今年が最後の大会で、恐らくクイーンは自身の最後のライバルにあの子を選んだのだろう。
実際のところは本人にしか分からないが、準決勝の食材選びの時と決勝直前の仲間の馬鹿な行動からあの子を守っている。
元々クイーンは誰に対してでも手を差し延べるような性格をしてるが、今回は少し特別な気もした。
「クイーンを受け継ぐプリンセスってとこか?」
「流石にそれは期待し過ぎだろう。 それにあの子はプリンセスってよりお姫様って感じじゃないか?」
クイーンの行動を少し考え込んでいた俺だが、仲間達はあの子がクイーンの後継者かと盛り上がっている。
まあ大和撫子のような容姿や幼さの関係から、いつの間にかあの子をお姫様と呼ぶ仲間に俺は少し苦笑いを浮かべつつ、酔い潰れて眠る三位入賞の仲間に視線を向けた。
残酷な話だが費やした時間や情熱が必ずしも結果に繋がる訳でないのは、どの業界でも同じである。
誰よりも情熱を持った彼は、その性格故に光り輝くクイーンの影になってしまったのだろうと思う。
もし同年代にクイーンやあの子が居なければ、彼の人生は変わったかもしれない。
どこまでも自由に羽ばたくクイーンは、最後の最後まで楽しんで終わった。
現に同点優勝の時のクイーンの嬉しそうな表情はそれを表している気がする。
まあどっちにしても俺のような凡庸な人間とは別次元の遠い世界の話なのだが。
ただ後に俺達が一番笑ったのはこの時俺達がふざけてお姫様と呼んでいた彼女の愛称が、いつの間にか本当にそのまま広がってしまったことかもしれない。
お姫様こと近衛木乃香が直系ではないとはいえ歴史にも登場するような近衛家の人間であり、学園長先生の孫娘だとはこの時の俺達が知るはずもないのだから。
結局クイーンやお姫様のように記録にも記憶にも残れなかった俺達が酒の席で考えたバカ話が、そのまま彼女の愛称の一つとして残る結果は俺達に人生の楽しさを教えてくれることになる。
あれは俺達が考えたと言っても誰も信じないだろうが、俺達はそれでよかったし彼女達を見る度にそのことを思い出すだろう。
同じ時代を生きた証がほんの少しでも残ったことは、予期せぬ幸せだったのかもしれない。
俺は弱小サークルであるパティシエ限定男子スイーツ研究会に所属する大学三年の男だ。
今は体育祭の打ち上げで仲間の一人の料理大会三位入賞を祝う飲み会をしている。
「ほら元気だせよ。 三位でも立派な成績じゃないか」
本来三位入賞は大健闘であり、仲間の男性も長年の努力が報われたはずなのだが彼のテンションは最悪と言っていいほど低い。
まるでお通夜か残念会のように落ち込む仲間を、俺や周りの仲間達が励ましながら酒を飲んでいる。
「俺は子供の時からパティシエになる修行してたんだぞ! それがあんな子供に……」
あまりにも落ち込む彼に仲間は面倒になったのか酒を飲ませてごまかし始めたが、厄介なことに彼は絡み酒になり始めた。
彼がここ数年打倒クイーンを掲げ人一倍努力していたのは俺達は良く知っているが、残念なことに彼の性格はマイナス思考でいいとは言えない。
今回の大会でも決勝直前に決勝進出者である中等部の子に嫌みを言ってしまったようで、逆にクイーンに撃沈されたとお酒の勢いで暴露していく。
嫌みを言った原因は自分の積み重ねた努力とプライドをぶち壊すような、少女の無邪気な笑顔が気に入らなかったらしい。
根は悪い人間ではないのだがパティシエに人生を賭けてる彼は、パティシエを甘く考えるような他人にまで厳しいという厄介な性格をしている。
彼は今年大学四年であり年齢的にはクイーン新堂美咲と同年齢だ。
自由に舞うようにスイーツを作るクイーンに対し、彼はどこまでも己と他人に厳しい昔かたぎの職人のような人間である。
その価値観は水と油で彼はクイーンを目の敵にしていたが、彼女はそんな彼にですら優しく微笑むのだから逆に彼の立場がない。
「でも実際にあの子凄いよ。 俺達なんて何年出場しても予選敗退なのに初出場で優勝なんだから」
「あんな子供に何が分かる!!」
今年の料理大会はスイーツ部門の優勝者であるクイーン新堂美咲と、新たな挑戦者近衛木乃香の話題で持ち切りだった。
実際に事前予想だと彼女は注目選手だったが、それは彼女の実力と言うよりは彼女の師匠とも恋人とも言われる男性の実力と、昨年初出場にして初優勝した天才超鈴音の再来かと騒がれたからだ。
正直予選が始まるまでは俺達の眼中にすらなかったし、同じ業界を目指す者の大半は似たようなものだったろう。
ただそれでも初出場で優勝した彼女の実力を俺達は認めない訳にはいかない。
直接負けた仲間はやはり気に入らないらしいが、偶然であれまぐれであれクイーンに一度は並んだ実力は本物だった。
「そういえばダチに聞いたんだけどさ、クイーンは大会前からあの子のこと気にしてたって話だよ。 あれほど楽しそうに料理をする子は珍しいってね」
あの子には俺達にはない何かがある、あの華麗なクイーンのように。
そう思う俺だったが仲間の一人からクイーンが大会前からあの子を注目していたと聞くと何故か納得してしまう。
今思えばクイーンは自身の予選終了後、真っ先にあの子に会いに行っていた。
それに準決勝では並み居る先輩達に気後れして出遅れたようなあの子をさらりと助けてもいる。
「あの人も楽しそうに調理するからなぁ」
真剣勝負の料理大会で、本当に楽しそうに料理をする人間などなかなか居るものではない。
そういう意味ではあの子はクイーンに似ていた。
仲間と同じくクイーンにとっても今年が最後の大会で、恐らくクイーンは自身の最後のライバルにあの子を選んだのだろう。
実際のところは本人にしか分からないが、準決勝の食材選びの時と決勝直前の仲間の馬鹿な行動からあの子を守っている。
元々クイーンは誰に対してでも手を差し延べるような性格をしてるが、今回は少し特別な気もした。
「クイーンを受け継ぐプリンセスってとこか?」
「流石にそれは期待し過ぎだろう。 それにあの子はプリンセスってよりお姫様って感じじゃないか?」
クイーンの行動を少し考え込んでいた俺だが、仲間達はあの子がクイーンの後継者かと盛り上がっている。
まあ大和撫子のような容姿や幼さの関係から、いつの間にかあの子をお姫様と呼ぶ仲間に俺は少し苦笑いを浮かべつつ、酔い潰れて眠る三位入賞の仲間に視線を向けた。
残酷な話だが費やした時間や情熱が必ずしも結果に繋がる訳でないのは、どの業界でも同じである。
誰よりも情熱を持った彼は、その性格故に光り輝くクイーンの影になってしまったのだろうと思う。
もし同年代にクイーンやあの子が居なければ、彼の人生は変わったかもしれない。
どこまでも自由に羽ばたくクイーンは、最後の最後まで楽しんで終わった。
現に同点優勝の時のクイーンの嬉しそうな表情はそれを表している気がする。
まあどっちにしても俺のような凡庸な人間とは別次元の遠い世界の話なのだが。
ただ後に俺達が一番笑ったのはこの時俺達がふざけてお姫様と呼んでいた彼女の愛称が、いつの間にか本当にそのまま広がってしまったことかもしれない。
お姫様こと近衛木乃香が直系ではないとはいえ歴史にも登場するような近衛家の人間であり、学園長先生の孫娘だとはこの時の俺達が知るはずもないのだから。
結局クイーンやお姫様のように記録にも記憶にも残れなかった俺達が酒の席で考えたバカ話が、そのまま彼女の愛称の一つとして残る結果は俺達に人生の楽しさを教えてくれることになる。
あれは俺達が考えたと言っても誰も信じないだろうが、俺達はそれでよかったし彼女達を見る度にそのことを思い出すだろう。
同じ時代を生きた証がほんの少しでも残ったことは、予期せぬ幸せだったのかもしれない。