番外編・ネギまIN横島~R~(仮)
《とあるパティシエの憂鬱》
「高橋さん今日閉店してから予定あるかしら? マホラカフェの横島シェフと近衛さんが夜に来ることになったんだけど」
私がその話を新堂さんから聞いたのは、今朝のミーティングの時だった。
現状私が働いてる店であるスイーツショップShindouのオーナーパティシエである新堂オーナーが今月のパーティーの件で近衛さんの相談に乗るとは聞いたが、どうやら話は相談では済まなかったらしく共同参加を提案したらしい。
私は高橋大輔、今年で三十五になるパティシエだ。
高校卒業と同時にこの業界に入った私は今年で十七年目になり、昨年の今頃に新堂オーナーに誘われてここで働いている。
当時から現役大学生の新堂オーナーは在学中にも関わらず自分の店を開店するので、自分が大学の講義に出席して居ない間などに店を任せられる人を探していたらしい。
今でこそ笑い話として言えるが、最初に誘われた時はすぐに断った。
こう言ってはなんだが三十代も半ばに入りようやく一人前になったと自負がある私が、何故今更社会経験もない二十歳もそこそこの小娘の下で働かねばならないのかとの抵抗感があった。
話を仲介してくれたのは当時私が居た店の先輩だったが、先輩いわく新堂オーナーの才能は十年に一人の天才だが、やはり社会経験はないので着実に経験を積んだ人を欲してるとのこと。
先輩からは三年でいいから力になってやってくれと一度断ったのにも関わらず頼まれたのは、半分は私の為でもあるとも言われる。
「お前は誰よりも真面目だが、その真面目さが欠点でもある。 だからこそ新堂のような奴を間近で見て欲しいと思うんだ」
先輩には随分世話になったし、私のパティシエとしての欠点を誰よりも理解していたのは確かに先輩だった。
几帳面で真面目な性格は技術面で評価される一方で、私の作るスイーツが面白くないと言われたことは過去に何度かある。
スイーツは確かに正確な技量が必要だが、同時に一流になるにはクリエイティブな才能が必要なのも確かなのだ。
私にはそのクリエイティブな才能がまるでない。
「お前と新堂は互いにないモノを持ってる。 ぶつかることもあるだろうが、お互いに必要な存在だ」
何度か先輩を交えて新堂オーナーと話をした結果、私は彼女の元で働く決意を固める。
新たな職場が埼玉県麻帆良市だと聞いた時は少し驚いたが。
そもそも埼玉県麻帆良市は日本のヨーロッパと言われる街であり、日本で一番個性的な街だとも聞く。
新堂オーナーは麻帆良学園の現役大学生だし先輩も麻帆良学園の卒業生だとは聞いていたが、麻帆良学園の卒業生は一部では変わり者が多いことでも有名だ。
良く言えばバイタリティ溢れる人が多く悪く言えば自己主張が強い故に、どちらかと言えば欧米人のようだと聞いた記憶がある。
良くも悪くも日本式の社畜のような会社には馴染めない人が少なくないとかなんとか……。
まあ実際に私が知る麻帆良の人間である先輩は麻帆良学園での日々を今でも懐かしんでいて、麻帆良祭には必ず有給休暇を取ってボランティアに行っている。
正直ボランティアなどに縁遠い私には理解出来ない行動だが、帰って来た先輩が疲れたと言いつつ満足げな表情だったのは印象深い。
そんな訳で私は新堂オーナーの元でチーフパティシエとして働くことになった。
「私は構いませんが、共同参加するんですか」
「マホラカフェは本当に面白いわよ。 あそこに行くと常識なんて些細な物だと感じるわ」
少し話が逸れたが新堂オーナーが、マホラカフェと近衛さんに興味津々なのは店では有名なことである。
正直新堂オーナーは今回は何かやらかすなと私は思っていたので、共同参加の件はある程度予想していた。
ただ新堂オーナーに常識なんて些細な物だと言わせるマホラカフェには少し不安を感じてもいる。
実際マホラカフェはこの業界では有名な店だし、横島というオーナーシェフもいろんな意味で有名な人だ。
横島シェフは個性豊かな麻帆良らしい人だというのが私のイメージだが、同僚いわく麻帆良でもあそこまで個性的な人はそうは居ないらしい。
新堂オーナーも割と常識に捕われない人だが、そんな彼女に常識が些細な物だと言わせるほどだと私は逆に不安が多くなる。
そもそも常識は必要だから常識だと私は考えるタイプだ。
新堂オーナーもそうだが常識を超える発想や行動は、常識でサポートしないと一般人には理解されないだろう。
横島シェフが自分でそれを出来るならば問題ないのだが、どうも噂を聞く限りでは彼の常識面をサポートしてるのは中学生の少女達らしい。
どうせならばその少女達も一緒に来てほしいと願うのは、私のワガママなのだろうか?
「心配そうね。 でも大丈夫よ。 噂よりはずっと冷静で優しい人だもの」
何故か新堂オーナーに私は心配性だと思われているが、それは新堂オーナーが心配しない分まで心配してるからなのだとこの人は理解してない。
確かに彼女のパティシエとしての才能は天才的だし、その分野においては後輩どころかライバルにすら笑顔で力を貸すほど広い器の持ち主ではあるが。
だが彼女は私のような平凡な人間に、自分がどれだけ輝いて見えてるかを全く理解してない。
それは彼女の愛称のようにクイーンに相応しい輝きなのだろうが、クイーンが輝けば輝くほど周りの影が濃くなる事実を理解するには彼女は若すぎた。
今になってみれば何故先輩が私を新堂オーナーに推薦したのかよく理解出来る。
今回も私は横島シェフや近衛さんが新堂オーナーの輝きに負けるとはあまり思ってない。
しかし噂通りならば彼らもまた人より輝くタイプなのだろう。
そんな眩しくなるほどの輝きが集まった後の影が私は心配だった。
全ては私の考え過ぎならばそれでいいが……。
「高橋さん今日閉店してから予定あるかしら? マホラカフェの横島シェフと近衛さんが夜に来ることになったんだけど」
私がその話を新堂さんから聞いたのは、今朝のミーティングの時だった。
現状私が働いてる店であるスイーツショップShindouのオーナーパティシエである新堂オーナーが今月のパーティーの件で近衛さんの相談に乗るとは聞いたが、どうやら話は相談では済まなかったらしく共同参加を提案したらしい。
私は高橋大輔、今年で三十五になるパティシエだ。
高校卒業と同時にこの業界に入った私は今年で十七年目になり、昨年の今頃に新堂オーナーに誘われてここで働いている。
当時から現役大学生の新堂オーナーは在学中にも関わらず自分の店を開店するので、自分が大学の講義に出席して居ない間などに店を任せられる人を探していたらしい。
今でこそ笑い話として言えるが、最初に誘われた時はすぐに断った。
こう言ってはなんだが三十代も半ばに入りようやく一人前になったと自負がある私が、何故今更社会経験もない二十歳もそこそこの小娘の下で働かねばならないのかとの抵抗感があった。
話を仲介してくれたのは当時私が居た店の先輩だったが、先輩いわく新堂オーナーの才能は十年に一人の天才だが、やはり社会経験はないので着実に経験を積んだ人を欲してるとのこと。
先輩からは三年でいいから力になってやってくれと一度断ったのにも関わらず頼まれたのは、半分は私の為でもあるとも言われる。
「お前は誰よりも真面目だが、その真面目さが欠点でもある。 だからこそ新堂のような奴を間近で見て欲しいと思うんだ」
先輩には随分世話になったし、私のパティシエとしての欠点を誰よりも理解していたのは確かに先輩だった。
几帳面で真面目な性格は技術面で評価される一方で、私の作るスイーツが面白くないと言われたことは過去に何度かある。
スイーツは確かに正確な技量が必要だが、同時に一流になるにはクリエイティブな才能が必要なのも確かなのだ。
私にはそのクリエイティブな才能がまるでない。
「お前と新堂は互いにないモノを持ってる。 ぶつかることもあるだろうが、お互いに必要な存在だ」
何度か先輩を交えて新堂オーナーと話をした結果、私は彼女の元で働く決意を固める。
新たな職場が埼玉県麻帆良市だと聞いた時は少し驚いたが。
そもそも埼玉県麻帆良市は日本のヨーロッパと言われる街であり、日本で一番個性的な街だとも聞く。
新堂オーナーは麻帆良学園の現役大学生だし先輩も麻帆良学園の卒業生だとは聞いていたが、麻帆良学園の卒業生は一部では変わり者が多いことでも有名だ。
良く言えばバイタリティ溢れる人が多く悪く言えば自己主張が強い故に、どちらかと言えば欧米人のようだと聞いた記憶がある。
良くも悪くも日本式の社畜のような会社には馴染めない人が少なくないとかなんとか……。
まあ実際に私が知る麻帆良の人間である先輩は麻帆良学園での日々を今でも懐かしんでいて、麻帆良祭には必ず有給休暇を取ってボランティアに行っている。
正直ボランティアなどに縁遠い私には理解出来ない行動だが、帰って来た先輩が疲れたと言いつつ満足げな表情だったのは印象深い。
そんな訳で私は新堂オーナーの元でチーフパティシエとして働くことになった。
「私は構いませんが、共同参加するんですか」
「マホラカフェは本当に面白いわよ。 あそこに行くと常識なんて些細な物だと感じるわ」
少し話が逸れたが新堂オーナーが、マホラカフェと近衛さんに興味津々なのは店では有名なことである。
正直新堂オーナーは今回は何かやらかすなと私は思っていたので、共同参加の件はある程度予想していた。
ただ新堂オーナーに常識なんて些細な物だと言わせるマホラカフェには少し不安を感じてもいる。
実際マホラカフェはこの業界では有名な店だし、横島というオーナーシェフもいろんな意味で有名な人だ。
横島シェフは個性豊かな麻帆良らしい人だというのが私のイメージだが、同僚いわく麻帆良でもあそこまで個性的な人はそうは居ないらしい。
新堂オーナーも割と常識に捕われない人だが、そんな彼女に常識が些細な物だと言わせるほどだと私は逆に不安が多くなる。
そもそも常識は必要だから常識だと私は考えるタイプだ。
新堂オーナーもそうだが常識を超える発想や行動は、常識でサポートしないと一般人には理解されないだろう。
横島シェフが自分でそれを出来るならば問題ないのだが、どうも噂を聞く限りでは彼の常識面をサポートしてるのは中学生の少女達らしい。
どうせならばその少女達も一緒に来てほしいと願うのは、私のワガママなのだろうか?
「心配そうね。 でも大丈夫よ。 噂よりはずっと冷静で優しい人だもの」
何故か新堂オーナーに私は心配性だと思われているが、それは新堂オーナーが心配しない分まで心配してるからなのだとこの人は理解してない。
確かに彼女のパティシエとしての才能は天才的だし、その分野においては後輩どころかライバルにすら笑顔で力を貸すほど広い器の持ち主ではあるが。
だが彼女は私のような平凡な人間に、自分がどれだけ輝いて見えてるかを全く理解してない。
それは彼女の愛称のようにクイーンに相応しい輝きなのだろうが、クイーンが輝けば輝くほど周りの影が濃くなる事実を理解するには彼女は若すぎた。
今になってみれば何故先輩が私を新堂オーナーに推薦したのかよく理解出来る。
今回も私は横島シェフや近衛さんが新堂オーナーの輝きに負けるとはあまり思ってない。
しかし噂通りならば彼らもまた人より輝くタイプなのだろう。
そんな眩しくなるほどの輝きが集まった後の影が私は心配だった。
全ては私の考え過ぎならばそれでいいが……。