番外編・ネギまIN横島~R~(仮)

《お散歩の途中で》


うろこ雲が空を覆うような秋晴れでのこの日、私はキャンバスを片手に麻帆良市内を散歩していた。

今年で三十になる私はいい年をしてフリーターだ。

元々は画家を目指して麻帆良芸大を卒業したが画家になど簡単になれるはずもなく、アルバイトをしながら絵を描く日々を送るうちに二十代が終わろうとしている。

海外にも数年間行ったりコンクールに応募したりもしたが結果には結び付いてない。

そもそも画家で生きていけるのは一握りの限られた人でしかないのだ。

分かってはいたが夢を諦めきれなかった。

だがそれももうすぐ終わる。

私は今年一杯で両親の住む故郷に帰るつもりなのだ。

今は画家として最後になる絵を描くべく街を歩いている。


「ここにしようかな。」

最後になる絵に何を描こうか一週間ほど悩み街を歩いているが、この日私はとある住宅地にある小さな児童公園を見つけるとそこから見える世界樹が気に入り描くことにした。

特別良く見えるということもなく近所の家の向こうに見える世界樹が何故か描きたくなったのだ。

元々私が画家を目指したきっかけもそう言えば世界樹だったりする。

高校時代に美術の授業で世界樹を描いたことがきっかけだった。


「どうかしたのかい?」

もうすぐ冬になり秋風は少し冷たく吹き抜けるが太陽の日差しもあり心地いい。

私は周りが見えなくなるほど集中してキャンバスに絵を描き始めるが、いつの間にか私の隣には小さな少女が居て静かに絵を描く私を見つめていた。


「えがじょうずだね。 わたしもえをかくけどへたなの。」

まだ下書きを描いてる途中のキャンバスを瞳を輝かせて見ている少女の周りには、何故か野良猫が集まっていて気持ちよさげに寛いでいる。

私は何故か少女に絵を描くがなかなか上手く描けないとの悩みを打ち明けられてしまう。


「上手く描こうなんて思わなくていいんじゃないかな。 楽しく好きなように描いてごらん。」

「うん! そうしてみる。」

腕組みをして真剣に悩む少女に私は子供の頃を思いだし、自分なりのアドバイスを贈る。

少女が私のアドバイスを何処まで理解したかは分からないが、真剣に聞き入れ自分なりに受け止めてくれたように私には見えた。

それが私と不思議な少女との出会いだった。



それから私は毎日同じ場所で同じ時間に絵を描き始める。

アルバイトの関係から私が描けるのは午後だけであるが、少女は毎日ほぼ決まった時間に訪れては私の描く絵を眺めては自分の描いた絵の話をしてくれた。

そして一週間を過ぎた頃、少女はスケッチブックとクレヨンを持ってきて私の隣で絵を描き始めた。

ニコニコと笑顔の少女は家が飲食店をしているらしく、家族や友人やお客さんの話をしながら絵を描いていく。


「はい、あげる。」

少女が絵を描いていた時間は三十分にも満たないが、少女は絵を描きあげるとスケッチブックから丁寧に切り離し私に描いた絵を差し出していた。

「これは……。」

差し出された絵は私が絵を描いてる姿だった。

そう言えば少女は人を描くのが好きだと以前言っていて風景画を描く私を興味深げに見ていた。

それは子供の絵そのものであったが、私がいかに絵を描いているかが伝わるような絵である。


「ありがとう。 お礼という訳ではないけど君の絵を描いてもいいかい?」

「いいよ! おにいさんえがうまいからたのしみ。」

この時私は何かビビッという閃きのようなものが頭の中を駆け巡った。

見る者に気持ちが伝わるような絵を描いた少女の姿を私の絵に描きたいと思ったのだ。

書きかけのキャンバスに少女と何故かいつも一緒の野良猫とマリオネットのような人形の姿を描いていく。

それは公園のベンチでおやつを食べる少女の姿をメインにしたため当初の予定とは変わった構図にはなったが、その絵はそれから三週間ほどで完成することになる。



「突然お訪ねしてすいません。 あの、よろしければこの絵を妹さんに贈りたくて来たのですが。」

その後十一月も半ばに差し掛かり田舎に帰る日にちを決めた私は初めて少女の自宅を訪ねた。

突然の訪問にも関わらず嫌な顔一つしない少女と少女の姉と兄に、私はこの一ヶ月余りの出来事を話して来月には田舎に帰るので最後に少女に絵を贈りたいと頼んだ。


「タマモ、どうする?」

「おみせにかざりたい!」

完成した絵を少女と家族は大層気に入ってくれたようで本当に喜んでくれたが、最終的に少女の兄は少女自身に決断を委ね私の最後の作品は少女の兄の店に飾られることになった。


「こんどはおみせにもきてね!」

「分かった。 約束するよ。」

帰り際私は少女と今度は店出会う約束をして別れるが、少女の兄からは持っていってと言われ半ば無理矢理封筒を渡される。

気を使わせてしまったことを申し訳なく思い返そうとはしたが兄は店に来てくれればいいからと受け取ってもらえなく、中身が十万も入っていたことは帰ってから気付き驚いたが後の祭りだった。

しかし画家になりたいという気持ちではなく、ただ好きな絵を描きたいと思い描いた最後の一枚は本当に満足のいく出来だった。

別に画家にならなくても好きな絵を描けばいいじゃないか。

あの少女にそう教えられたからこそ描けた一枚だと思う。



ただこの出会いが諦めたはずの画家への道を開くことになるとは、この時の私は思いもしなかった。

一ヶ月後の田舎に帰る引っ越しの前日に少女の兄の店に飾られた絵を見た雪広清十郎氏に認められ、私は急遽麻帆良に残ることになるとは予想出来たはずもない。

【お散歩】と名付けた最後になるはずだったあの絵は私の出世作として後に評価されることになり、少女の兄の店でいつまでも多くの人に見守られることになる。

それと私が少女から頂いたあの絵は、私の生涯の宝物として大切に持ち続けるだろう。


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