ファーストコンタクト

そこは見渡す限りの草原だった

天気がよく、雲一つない青空が広がっていて


草原に伸びる真っ直ぐな道を、一人の青年がゆっくり歩く


青年は青い旅人の服の上に、黒いコートを着ていた

コートのフードで顔は見えないが、額にはバンダナが巻いているようだ


「さて、この世界はどうかな…」

青年は無表情だが、ぼそっと呟いた



青年の名は横島忠夫


安住の地を求めて異世界を渡り歩く旅人


「通信鬼」

横島が呟くと、手乗りサイズの通信鬼が現れる


「土偶羅、近くの大きな街はどっちだ?」

「うむ、南に1500キロ先に大きな街がある。 その辺りでは最大の街だ。 途中には村がいくつかある」

横島は通信鬼を使いアジトの土偶羅と話をしていた


横島は通信鬼を消すと、空を見上げてゆっくり歩き出す

「結構遠いな… ゆっくり行きますか」

横島はため息をついて再び道の先へと歩く


「必ずみんなを、転生させられる世界を見つけてみせる…」

横島は拳を握りしめて呟いた



そして、その日の夜…
 
 
「わざわざアジトのゲートを作る必要は無いな…」

横島は街道の近くで野宿をすることにした


横島が一瞬念じると、おおきなカバンが現る

それは、かつての仲間であるヒャクメの形見の物であった


横島はカバンを開けて、中に手を入ると…

中からテントや寝袋を出していた

続いて、食料や鍋やらをたくさん出して、横島はカバンを消す


横島はヒャクメのカバンの一部に、アジトと繋がるゲートを作っているのだ

それにより、アジトにある物を取り出していた


横島は慣れた手つきで、テントを組み立て野宿の準備をしていく


「狐火」

横島は手のひらに10センチの丸い狐火を作って、それをその場に固定して、その火で料理を始めた


「何を作るかな… 久しぶりにカレーにでもするかな」

横島は慣れた手つきで、野菜や肉を切り分けて鍋でカレーを作りだした


鍋が煮えてくると、辺りにはカレーのいい匂いが広がっていく…

横島はカレーを味見して、最後に味を整えた

「うん! 上手い。 さすがはおキヌちゃんの知識だ」

横島は満足そうに笑った


今の横島は人間ではない

ルシオラ
美神令子
氷室キヌ
タマモ
犬塚シロ
小竜姫
ヒャクメ
ベスパ
パピリオ


この9人の魂の一部を持っている

それにより、彼女達の力、能力、経験、知識を横島は継承していた


神魔妖人、全ての力を持つ者なのだ


肝心の彼女達やその他の仲間は…

すでに生きてはなく、その魂は横島のアジトに封印されている


その理由は簡単だ…

横島が生まれ育った世界はすでに消滅していた


世界が消滅すれば、その世界に生まれるはずだった仲間達の魂も消滅してしまう


横島は持てる知識と能力で、仲間達の魂をアジトに集めて時を止めて封印した

輪廻転生出来ない魂は、あまりに弱く不安定だったのだ


横島は仲間達を転生させられる世界を探して、一人異世界を旅して回っているのだ


しかし、その旅は長く難しいものだった

どこの世界も争いや差別が酷く、横島が納得出来る世界は無い



カレーが出来ると、隣で炊いていたご飯に、カレーをかけて横島は食べようとしていたが…


その時、横島は静かに皿を置いた


「そこで覗いてる人、そろそろ出て来てくれないか?」

横島は近くの木を見て話しかけた


ガサッ!!

ドタバタ!


木の裏で驚いて、転んだようだ


「うう……、ビックリしました~」

現れたのは、10才くらいの美少女

髪の色は黒、腰までの長い髪をしていて、服はあちこち破れている


少女は震えながら横島を見ていた


「何か用か?」

横島は現れた少女に少し微笑む


「助けて下さい…」

少女は怯えながら小さく呟いた


横島は静かに立ち上がり、少女に近寄る

少女は怯えて後ずさりするが、横島はゆっくり近づいて優しく抱きしめた

「大丈夫だ。 安心しろ。」

横島はそう呟いて、少女を文珠【眠】で眠らせた


横島は少女をテントの中に入れて、再び少女が居た木の方を睨む

1/6ページ
スキ