その三

さて歓迎会の方は和やかな空気のまま進んでいくが、それぞれ個別で話されてる会話の中身の半分はやはり仕事の話だった

中でも麻帆良祭に関する話は半ば愚痴のようになっている


「試験が終われば今年も忙しくなるな」

「生徒は元気ですからね。 テストが終われば徹夜組も出はじめますし……」

麻帆良祭を楽しみにしてる生徒達と対照的に教師陣の表情は重苦しい

早い生徒達は一ヶ月ほど前から徹夜で作業する者も居るのだ

まあ実際に中等部はそれほどでもないのだが、中には気合いの入ったクラスや部活では連日数人が徹夜するくらいは有り得る事である


「残業代が出るのはいいけど、この年で徹夜は辛いな」

横島から少し離れた場所に座る中年の男性教師は、麻帆良祭に関わる残業にため息をはいていた

生徒が徹夜をすれば教師もまた学校に残らねばならない

本来は前日以外は夜9時以降の準備はダメなのだが、実際にはその前でも隠れて準備をする生徒が後を絶たない

結局教師陣もまた一ヶ月前から夜間の学校への泊まり込みをして、夜間の校内の巡回をするのが慣例となっているのだ


「徹夜ですか……」

「横島君は若いからいいけど、私達は辛いよ。 まあ当直が多い新田先生が一番大変なんだけどね」

聞こえてきた話に横島が思わず呟くと、近くに居た老年の教師が苦笑いを浮かべて事情を教えてくれる


「昔は徹夜とか厳しく規制もしたんだけどね。 厳しく規制すると生徒達が学校外で作業をやるんだ。 寮ならまだいいけど、中には倉庫なんかを借りて作業しちゃう生徒も出てね」

麻帆良祭の巨大化と商業化が進むにつれて生徒達の活動が活発化したまではよかったが、リアルな収入が入る麻帆良祭の出し物はどこも気合いが入ってるらしい

年々趣向を凝らして素晴らしい物が増えてるのだが、その分準備期間が長くなってるようだ

日中は学校の授業があるために、必然的に準備は朝か夜間になる

学校外での準備は安全性や近隣への迷惑などから問題になってしまい、結局夜間準備禁止の有名無実化が進んだようだった

教師は夜間の準備を認めないスタンスは崩してないが、夜間の学校の封鎖や発見次第追い出すなどの対応はなくなったらしい

一応見つけ次第口頭で注意はするが、どちらかと言えば安全に配慮した見回りであり見て見ぬフリをしてるのが現状だった


「なんと言うか……」

「生徒の社会勉強や自立心の育成なんかには役に立ってるけど、教師はなかなか楽しめるイベントじゃないんだよ。 まあその分、この時期の残業代は馬鹿にならない金額を貰えるけどね」

横島も少し前に麻帆良祭の資料を見たが、実際は予想以上に大変だった事実に微妙な表情しか出来ない

最早学園祭のレベルじゃないのだが、そんな生徒をサポートする教師の気苦労は絶えないようだ


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