その三

さてリビングの方だが、いつもに増して賑やかな食事になっていた


「あー! その肉は私が狙ってたのに!」

「甘いね、まき絵。 早い者勝ちだよ」

「二人とも落ち着いたら? まだいっぱいあるやん」

特に賑やかなのはまき絵と裕奈達四人の辺りだった

まき絵と裕奈は肉の食べる頃合いが似てるようで、何度か肉の取り合いをしている

亜子やあきらが止めるのも聞かずに二人は対抗心を剥き出しにするが、どちらかと言えば争いながら食べるのが楽しいだけかもしれない


「いや~、美味しいお肉だね。 また胸がおっきくなったら困るな~」

肉の争奪戦に優勢だった裕奈は胸を持ち上げて邪魔なんだよね~と笑みを浮かべるが、その言葉に今後はまき絵だけでなく亜子も反応して肉の争奪戦が激化していく


(生まれ持った素質には勝てないのかもしれませんね)

裕奈の胸の発言に夕映も僅かに反応するが、こちらは視界に入る千鶴の胸を見つめ半ば諦めの境地に入っている

いくら食生活を改善したところで千鶴のようになるのは不可能だと悟ったらしい



「一緒に夕食を取るのも久しぶりだね。 アスナが寮に入ってからは、なかなか一緒に食事する機会がなかったからな」

一方高畑と明日菜の二人だが、明日菜は相変わらず緊張気味だが高畑は結構楽しそうだった

かつて一緒に暮らしていただけにその成長が何より嬉しいのだろう


(そういえば、高畑先生も魔法使いなのよね)

チラチラと高畑を見ていた明日菜だが、ふと高畑が魔法使いだった事を思い出し少し複雑な気持ちになる

幼い頃より知っている唯一の肉親とも言える高畑が、まさか魔法使いなどとは思いもしなかったのだ

しかも明日菜がこの情報を知ったのは割と最近で、ヘルマン事件後の後始末とネカネを麻帆良に呼ぶ関係で横島より聞いている


(学園長といい高畑先生といい横島さんといい、身近にそっち関係の人が多いわね)

高畑が魔法使いだった事実に明日菜はショックもあったが、それでも学園長や横島などの身近な知り合いが一般人じゃなかった事実がすでにあった為に、それほど酷いショックでもなかった

まあ横島の異世界人だった話の後なだけに、割と冷静に受け止めていたようだ


「高畑先生は日頃きちんとご飯を食べてるのですか? 正直自炊してるイメージが湧かないです」

「最近は忙しいから外食が多いかな~ アスナ君が居た頃は料理もしたんだけどね」

高畑を見ていた夕映は思わず浮かんだ疑問を尋ねてしまうが、その答えは少し意外なものだった

横島もそうだが高畑も生活感が見えないため、私生活が結構だらし無い気がしていたのだろう

しかし必要があれば自炊するだけの生活力があるとの答えに、夕映は僅かに驚いていた


(高畑先生も訳アリのようですね。 何処か横島さんと似た空気を持ってます)

それは横島を最も近くから見続けて来た、今の夕映だからこそ感じれたことだろう

強く優しい高畑には何か人にあるモノが欠けている

まるで大切な何かを失った子供のように……

過去に縛られるように生きる横島に、高畑は何処かダブって見える部分があったのだから



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