その三

その後横島が帰って来て勉強を教えるのだが、賑やかな3ーAの空気そのままの勉強会だった


ピンポーン

そんな時、来客を告げるインターフォンが鳴る


「うちが出るからええよ」

明日菜達に勉強を教えていた横島が玄関に向かおうとするが、木乃香がその前に立ち上がり行ってしまう

日頃横島宅に集まるメンバーはインターフォンなど鳴らさないので、来客は日頃来ない誰かである

木乃香はまた別の3ーAのメンバーかと思い玄関を開けるが……、やって来たのは高畑だった


「横島君はいるかい?」

「高畑先生なら大歓迎や。 どうぞお上がり~」

やって来た高畑を、木乃香はちょうどよかったと言わんばかりに家の中に上げる

何か用事があって来たのだろうが、高畑を好きな明日菜の為にもせっかくだから一緒に夕食を食べようと考えたらしい


「みんな頑張ってるな~」

「たっ、高畑先生!?」

リビングの大きなテーブルで教科書を広げる明日菜達に高畑はいつものように声をかけるが、予想外の高畑の登場に明日菜は瞬時に固まってしまう


「せっかくだから僕も手伝おうか」

生徒であるのどかや木乃香が教えてる姿に、高畑は時計をチラリと見た後に自分も教えると言い出す


「じゃあ先生はここに座ってお願いしますね」

明日菜達の勉強してる場所を見て誰から教えようか考える高畑に対して、木乃香はすかさず明日菜の隣の席を譲った

結果のどか・木乃香・さよも自分の試験勉強を始めて、横島と高畑が半々くらいに勉強を教えていくことになる


「そういえば高畑先生は何か用事があって来られたのでは……?」

真面目に勉強をしていた夕映は、ふと高畑が持参した封筒が気になった

わざわざ家に来たことから魔法絡みで横島に用事があったのかと考え、そっちを優先させなくていいのか気になったようだ


「後でいいよ。 それほど急な用じゃないからね」

夕映の考えを見抜いた高畑は、相変わらずの頭の回転の速さに驚きと苦笑いを浮かべる

夕映が真面目に勉強すれば学年でかなりの上位に入るはずなのだから……



その後の勉強会は多少賑やかになるものの、比較的スムーズに進むことになる

やはり教師が二人居ると進むスピードが全然違うようだった

それに高畑に教えられてる明日菜の勉強が、先程よりも数倍早く進んでいたのは高畑が教えてる成果だろう


(師匠、明日菜君は幸せに生きてますよ)

四苦八苦しながらもどこか楽しげに勉強する明日菜の姿に、高畑はふと亡くなったガトウを思い出す

高畑の師匠であるガトウの願いにより全てを忘れて幸せに生きる明日菜の姿は、高畑にとってかけがえのないものだった

自らの無力さを嘆き逃げる事しか出来なかった苦しみを、高畑は一瞬たりとも忘れた事はない

ナギや仲間達の努力と願いにより平和に生きる明日菜は、高畑にとって絶対守らねばならない大切なものなのである


「高畑先生、ここなんですけど……」

「ああ、ここはね……」

師匠や仲間達を思い出していた高畑は、遠慮気味の明日菜の声により現実に戻って来る

込み上げて来る悲しみを押し殺すように高畑は笑顔を作り勉強を教えていく



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