その三

一方アーニャは見渡す限りの深い森の中で我に帰っていた

転移魔法陣で麻帆良に帰ればよかったのだが、我を忘れていたアーニャは妙神山出張所の門から外に出てしまったのだ

以前にも説明したがこの異空間アジトは、異空間にアシュタロスが創造した別次元の宇宙にある星なのである

未開の惑星で散歩するようなものであり、むやみに外に出ると間違いなく迷子になるのだ


「ここはどこなのよ。 っていうかさっきの山はどっち?」

森と山など見渡す限りたくさんあり、アーニャはどっちに行けばいいかわからない

携帯をチラリとみるが、もちろん電波なんてない訳だし


「アーニャ! どこ行ったのー?」

そんな時遠くからネギの声がするが、アーニャは反射的に隠れてしまう

探しに来たことが嬉しいのか微妙に顔が赤いが、だからと言って自分から名乗り出るほど素直じゃない

二人はしばらくそのままかくれんぼを続けていく



さて横島達の方は気絶から目覚めたネカネにある程度の事情を話すが、ネカネはどう判断していいか困惑しているようだ


「ナギさんの友人の方は変わった方が多いんですよね。 かつての村にも……」

エヴァが噂のような極悪非道な魔王でないことは横島達が説明して比較的すんなり納得したネカネは、かつての村に住んでいたナギの知人達をふと思い出す

あまり評判の良くないような人も何人か居たが、実際はネカネにも優しくしてくれた人達だったのだ

先程は突然の事で気を失ったネカネだが、そんな人達との出会いもあり噂をそのまま信じるほど馬鹿でも子供でもないらしい


「あの連中と一緒にされたくないな」

納得気味のネカネに対して、エヴァはナギの仲間を思い出して不快そうな表情を見せる

あまりいい思い出ではないらしい


「ネギは変わってしまったんです。 6年前の事件で……」

横島や木乃香達が無言で見つめる中、ネカネは6年前にネカネやネギの村で起きた悲劇を語りだす

父親や母親を求めてた幼いネギが、大量の魔族の襲撃事件を境に何かにとりつかれたかのように力を求め勉強に熱中したこの6年

ネカネは祖父と共に本当の兄弟のようにネギに接して見守って来たが、ネギは表面上は元気になったが影でいろいろ無茶をしていたとネカネは刻々と語っていく


「私がここに呼ばれた理由も何となく理解してます。 あの子は人として必要なモノが欠けてますから…… 祖父はそれを理解してネギを麻帆良へ送り出したと言ってました。 過去を忘れ幸せになって欲しいと願っていたようです」

ネカネの話ではネギの魔法学校での禁呪書庫の立ち入りなどは、全て露見していたらしい

元々生徒が少ない魔法学校で深夜に禁呪書庫に侵入する者は限られているのだ

バレてないはずがなかった


ネギの麻帆良での修業の理由の一つには、過去を忘れて幸せになって欲しいとの願いもあったらしい

まあ他にもネギの立場や安全を守るには魔法界から離れた権力の場所で修業させるのが必要だったなど、政治的な思惑も当然あるのだろうが……


「あの、それで村の人達はその後……」

「生きてはいます。 私の両親もアーニャちゃんの両親も。 最もあまりに高度な石化な為に治療は出来てませんが」

ネカネの話に衝撃を受けた木乃香達は涙を流しており、エヴァですらその表情は険しく微かに涙が浮かべている

夕映は恐る恐る村の人達のその後を聞くが、答えは残酷なものだった


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