その三

「食べるわけないだろ。 吸血鬼をなんだと思ってるんだ。 だいたいここのアジトは魔力に満ちてるから血を吸う必要すらない」

真顔でさよに聞かれたエヴァは脱力感を感じつつも人間は食べないと当然の事を言う

当然過ぎる事なのだがさよがあまりに真顔な為に、真面目に答えたらしい

そもそも横島のアジトは魔力などのエネルギーが豊富で、特に妙神山出張所にしてる場所はエヴァは居るだけで魔力がみなぎるほどである

従ってここに来てからは血を吸う必要すら無くなっていたのだ


「ネギ、ハニワ兵を連れてあの子に説明して呼び戻して来いよ。 迷子になるぞ」

あまりのアホな会話にポカーンとしていた横島だが、このままではアーニャが迷子になるのでネギに説明させに行かせる

元々説明しなかったのはネギなのだし、責任を取らせて説明させるつもりらしい


「エヴァちゃんかわいそうや」

「あれは酷いねー」

「魔法界じゃ寝ない子供に、《闇の福音がさらい来るぞー》とか言うほど怖い存在なんっすよ!」

先日のヘルマン編で魔法使いのエヴァに対する扱いに疑問を感じていた木乃香は、エヴァがかわいそうだと言いまき絵も同意する

ちょっと無口だけど、二人にとってはクラスメートで友人には変わりなかったのだ

そんな木乃香達にカモはエヴァの魔法界での扱いや評判を聞くが、それには二人どころか明日菜や刹那ですら酷いと感じるほどだった


「噂や伝説っていい加減だからな。 しかし食べられるってのはまるでコントみたいだな」

あまりに真実と掛け離れた噂や虚像に木乃香達は複雑そうだが、横島は人の噂はそんなもんだとわかっている

かつて人類の敵だと言われた時も、何も知らない連中が好き勝手言い続け横島を人類の敵だとしたのだから……

しかしアーニャの逃げる姿は、思わず吹き出しそうになったほどマヌケなものだったのだ

仮にも魔法使いを名乗るなら吸血鬼くらい覚えておいて欲しいと願ってしまう


「あいつもマヌケだがお前らもたいがいだな。 私の噂を聞いてかわいそうと言った人間など居ないぞ?」

相変わらず友達として考える木乃香達にエヴァは若干苦笑いを浮かべていた

その正体を知り力を見ても変わらぬ木乃香達もどこかズレてると感じるようだ


「常識で計れないのは横島さんも同じです。 それに揉め事に巻き込んでおいて困った時に助けてもくれない魔法使いよりは、ずっと信頼してるです」

苦笑いのエヴァに夕映は真剣な表情で理由を語るが、夕映の場合は修学旅行の件に対する疑問も大きかった

修学旅行の件で助けてくれたのは横島やエヴァであり、他の魔法先生や魔法使いではない

加えて何故自分達の修学旅行に揉め事を持ち込んだのかも、実は気になっていたのだ

正直夕映としては親書を運ぶなら、別件としてネギが一人で京都に行けばよかったと思うのである

元々木乃香が危険な可能性のあった京都への修学旅行に、わざわざ揉め事の元になりそうな親書を持ち込むなど考えられなかった

正直横島とエヴァが居なかったらと思うとゾッとしてしまう

ネギは頑張ってるが、明らかに荷が重いのは明白なのだから


「しかしネギの秘密主義にも困ったもんだな。 説明すらしてなかったとは……」

横島は夕映の話に思うところもあったが、その前にネギがネカネに秘密にしたまま弟子入りした件に頭を抱えている

エヴァの正体や立場を知るゆえに手紙では安易に言えなかったのかもしれないが、麻帆良に来た後には説明していたと思っていたのだ

それが何一つ説明してなかったと言うのは、気が利かないと言うか何と言うか……

やはりネギの弱点はなかなか成長しないと横島はシミジミ感じていた
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