その三

「アスナ、やっぱり寂しい?」

ネカネ宅からの帰り道、木乃香は少し元気のない明日菜に声をかけていた

明日菜の気持ちが愛情なのか友情なのかは木乃香には分からないが、特別な何かがある事には当然気付いている


「そうかもしれないわね。 いろいろ苦労させられたし、本当に大変だったのよ。 魔法を他人に知られたら、オコジョにされちゃうって泣きついてくるし……」

ネカネが来た事により明日菜はホッとした気持ちの半面、寂しさもまた感じている

ネギとの出会いから思い出していく明日菜は、苦労が多かった分だけその喪失感も大きかった


「俺としては最低5~6年はネギに麻帆良に居て欲しいんだがな。 少なくとも18才までは静かに修業させたい」

あくまでも横島個人の意見としてだが、ネギの見習い期間を早期に終了させるつもりはなかった

なまじ才能と力があるゆえに、精神とのバランスが取れるまではネギを一人前にするつもりがない

まあその辺りは魔法使いの問題な為に横島が口出しする問題ではないが、ネギの行動に何かしらの制限はかけるつもりである

ネギの魔法使いとしての立場や周辺環境が、思った以上に難しいのが理由だった


「そもそもネギが目指すマギステル・マギって言うのは何なの? 私イマイチ分からないのよね」

横島がネギの今後を少し語った事で明日菜は、魔法使いの疑問を口にする

立派な魔法使いと言う肩書はよく聞くし世の中の人々の為にとは言うが、具体的なイメージが湧かないらしい


「その件は俺もそんなに詳しく知らないんだよな。 ただ魔法使いの仕事の名誉職みたいなものらしい。 表向きは紛争やら貧困地域での支援が仕事らしいぞ」

「表向き?」

横島の意味ありげな説明に、明日菜と木乃香は不思議そうに首を傾げる


「紛争や貧困なんかの支援は簡単じゃない。 ただ困ってる人を助ければいいってもんじゃないんだ。 政治的・軍事的・宗教的な問題が絡むから中途半端に手を出せば逆効果だ。 魔法使い達が何を考えて介入してるのかは俺にはわからん。 しかしただの善意だけじゃあるまい」

あくまで個人的見解だと告げて語るが、魔法使い達の活動には何かしらの政治的な意味があるのではと横島は考えている

無論ボランティア活動に近い活動もあるのだろうが、立派な魔法使いとして宣伝し活動する者達は少なくとも何かしらの政治的な意味があると考えた方が自然だった

ただ助ければいいと言うものではないし、そもそもそれほど世界は単純じゃない

誰かを助ければ新たな紛争や憎しみが広がる事など、よくある現実である


「ゴメン、私には意味が分からないわ」

「悪い悪い、俺が言いたいのは何事にも裏があるって事だよ。 下手に綺麗事を並べる連中ほど、裏じゃ何を考えてるかわからないもんなんだって事だよ」

木乃香はなんとなく理解したようだが、明日菜は半信半疑といった感じだった

横島は立派な魔法使いを否定するつもりはないが、ネギが語る聖職のようなものではないと考えている

そしてネギがそんな甘い幻想を抱いたまま世界に出る事に危機感を抱いていた


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