その二

「普通の人生か……」

千鶴の言葉に横島はふと過去を思い出してしまう

元々はケンカも出来ないほど臆病で根性がなかった自分が、何故こんな奇妙な人生を送ってるのか横島も不思議なのだ


全ての始まりが何処かは横島にもわからない

最愛の人を失った時なのか、前世からの縁がある人と再会した時なのか


それとも……


「何か苦しいなら抱え込まずに話してもいいですよ。 私は聞くしか出来ませんが」

それはほんの一瞬の事だった

横島の表情が苦しむ子供のように見えた千鶴は、思わずそんな言葉を口にしてしまう

何か考えて言った言葉ではないが千鶴がボランティアで面倒見てる子供達の姿が横島にダブって見えた為に、自然にそんな言葉が出てしまったようである


「えっ!? あっ、いや~ 大丈夫だよ」

まるで年上のように優しく言葉をかける千鶴に、横島は思わずオロオロと慌ててしまった

頭の整理が付かない千鶴の話を聞いていたはずなのに、いつの間にか逆に慰められるとは思わなかったようだ


「ウフフ、無理をしてはダメですよ。 さて、私も少し眠ります。 お酒はほどほどに」

オロオロする横島の姿を見た千鶴は、心が少し落ち着いた気がした

常識的に有り得ない事の連続で頭の整理が付かなかったが、意外に優しくされるのに弱い横島を見てホッとしている

いろいろ未知な世界はあるのだろうが、結局同じ人間だと感じられたのが落ち着いた原因だろう


「全く、俺って奴は……」

千鶴が眠る為に部屋に戻った後、残された横島は苦笑いを浮かべてため息をはく

昔を思い出してたせいでもあるが、少し優しくされたくらいで慌ててしまう自分が情けなくなる

いっそ嫌われる方が慣れてる横島にとっては楽かもしれない



次の朝、千鶴と夏美はそこそこ眠れたようである程度落ち着いていた

一方ヘルマンに眠らされたまま横島宅で朝を迎えたあやかだが、何故自分や千鶴達がここに居るのか不思議そうだったが、昨日事件があったので安全の為に連れて来たと言うと一応納得したようである

一同はそのまま少し早い時間に朝食を食べて、学校へ登校するために早めに寮に戻っていく


その後木乃香達は普通の日常と同じく授業を受けるが、横島はヘルマンの件で学園長室に呼ばれていた


「やっぱりあのガキですか……」

横島が学園長から聞いたのは小太郎の証言だった

修学旅行で会ったフェイトを名乗る少年が裏で暗躍していたのを証言していたのだ


「どう思うかね?」

「多分真実でしょうね。 そもそも一般人のアスナちゃんの能力は京都でしか見られてないんです。 それ以上の原因はわかりませんけど……」

意味ありげに尋ねる学園長に横島はフェイトの暗躍は多分真実だろうと告げる

しかしその真意や明日菜が狙われた訳はわからなかった


「明日菜君に関してだが……」

「わかってますよ。 木乃香ちゃんと同じように警戒します」

現状では小太郎の証言しかなく、それの裏を取るのはこれからである

学園長が言いにくそうに明日菜の扱いを言おうとするが、横島はすでに昨日のうちから考えており密かに土偶羅に警戒レベルを上げさせていた


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