その二

「ご丁寧にどーも。 こっちは自己紹介不要みたいだな」

慌てる事も驚く事もないヘルマンに横島もまた淡々と答える


「人質が大切ならば動かない事だ。 私の仕事が終われば人質は無事に返そう」

「そんな戯言を信じる馬鹿がいるか?」

人質を無事に返すと言うヘルマンに、横島は思わず呆れた様子で答えていた

仮に相手がアシュタロスクラスの魔神ならば言葉も真実味もあるが、爵位級魔族を名乗るとはいえ現在のヘルマンの実力はせいぜい下級魔族上位がいいとこだろう

言葉や態度から元々は上級魔族だった可能性もあるが、今のヘルマンの言葉など信じる方がおかしい


「信じる信じないは君の自由だ。 さてネギ君との戦いを再開する前に君にも聞いておきたい。 私の言葉を否定する君は何のために戦うのかね?」

緊張感が見えない横島にもヘルマンは紳士的な対応を崩さない


「否定したつもりはないけどな~ まあいいや。 戦う理由を深く考える時間なんか俺にはなかったよ。 元々好きで戦ってる訳じゃないし、俺は……」

横島はそこで思わず言葉を飲み込んでしまう

【美人の嫁さんを手に入れて退廃的な人生を送りたかっただけ】

今の横島には、そんなかつての理想を語る事は出来なかった

失った仲間達もみんなそれぞれ夢や理想があったが、叶える事が出来ずに死んで行ったのだ

今更自分だけがかつての理想を口にするなど出来るはずがない


「……俺の戦う理由は高いぞ。 本当に聞きたいなら金持って出直して来いよ」

横島はそれ以上ヘルマンの言葉に答えるつもりがなかった

答えて戦いが避けられるなら別だが、この戦いは横島の答えに関係なく避けられないだろう

見知らぬ魔族に自分の事を話す理由などない


「うむ、では大人しく見ていてもらおうか」

横島が答えない事に少し残念そうなヘルマンだが、それ以上聞くつもりはないらしく人質に視線を送りネギとの戦いを再開しようとする


「わりいな。 もう終わってるんだ」

その時、横島は無表情のままに極小の霊波弾を空に打ち上げた


パァァーーン!!

上空に上がった極小の霊波弾は空で弾けて、凄まじい光を辺りに照らす

それは横島がかつて使っていた【サイキック猫だまし】と同じ原理の技だった

小さな霊波弾を上空でスパークさせて閃光弾のような作用をもたらしている


「なっ!?」

ヘルマンが空を見上げ眩しそうに目を覆うその瞬間、人質の影からエヴァが刹那達を連れて転移して来た


「全く、要らぬ手間をかけさせおって」

エヴァは愚痴をこぼしながらも、明日菜の拘束を解いて魔法無効化の首飾りを破壊する


「エヴァちゃん!」

「下がってろ」

助けが来て喜ぶ明日菜を後ろに下がらせたエヴァは、スライム達に視線を向けていた


「死にたくなければ大人しくしてろ」

睨みつけるエヴァの体から溢れてくる魔力に、スライム達は一瞬攻撃しようとして止まってしまう

あまりに格が違うエヴァの殺気と魔力に、戦おうと思っても体が動かないようだ


「大丈夫ですか!」

一方刹那・楓・古菲は、残りの人質を救出して庇うようにヘルマンを警戒していく


「クッ……、やはり奴も来たか」

瞬時に人質を奪われたヘルマンは、エヴァの姿に気付き横島を睨む

事前の調査で横島と関わりがある人物にエヴァの名前もあった事から一応警戒はしていたようだ


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