その二

「噂くらいは知ってますよ。 それが何か?」

ガンドルフィーニの声に横島は淡々と答える

ちなみに横島はエヴァの過去を、最初本人から軽く聞いた以上は噂程度しか知らない

土偶羅はある程度下調べしてるかもしれないが、横島は過去にあまり興味なくそれ以上聞いてないのだ

基本的に相手を見て判断するのは、今も昔も変わらなかった


「何かって闇の福音は凶悪犯だぞ!!」

ガンドルフィーニの声に会場が静まり返る

魔法使いの大半は同じ意見だろうが、さすがに後ろに本人が居る場所で言い切るガンドルフィーニに共感する声をあげる者はいない

まあエヴァ本人の顔を知るのは一部の魔法先生だけなので、多くの魔法使い達は会場の空気にのまれてるだけだが……



「なんでそんな言い方するん?」

その声は突然会場に響き渡る

魔法使い達は驚きの表情で一斉に後ろを振り返り、それは横島やエヴァも同じだった


「エヴァちゃんはアスナ達を助ける為に来てくれたんよ。 そんな言い方されていい気持ちするはずあらへんのに……」

悲しそうな表情で見つめる木乃香の言葉に、ガンドルフィーニは驚き見つめる

学園長の孫である木乃香がエヴァを庇うのが信じられないようだ


「木乃香君も横島君もエヴァンジェリンの恐ろしさを知らないじゃないか? 万が一裏切ったらどうするんだ!?」

ガンドルフィーニとて好きでこんな事を言ってる訳ではない

人質を思い心配すればこそ言っているのだ

価値観と言うのか常識と言うのかわからないが、超えられないほどの認識の違いがそこにはある

魔王とも呼ばれるエヴァを信用出来ないのは魔法使いとしては当然だし、別に好き嫌いで言ってる訳ではない


「ウチはエヴァちゃんを信じとる。 だから……」

目に涙を溜めて何かを言おうとする木乃香だが、上手く言葉が出てこない

そもそも魔法使いの世界の常識や価値観に疎い木乃香は、何故エヴァがそこまでの扱いをされるかわからないのだ


「わかりました。 じゃ皆さんは解散して結構ですよ。 わざわざ集めてすいませんでした」

木乃香の様子に言葉が続かなくなったガンドルフィーニの代わりに、横島が話を始めていた

魔法使い達に深く頭を下げると、そのまま木乃香達の元に歩き始める


(俺のミスだな……)

エヴァの扱いなどをある程度把握していた横島は、自分の考えが甘かった事を悔やんでいた

まさか魔法使い達にこれほどエヴァに対するアレルギーがあるとは、思わなかったのである

過去に何があるか知らないが、今は同じ街で平和に暮らしているのだ

いろいろ蟠りがあっても、魔族に人質を取られた危険な現状で信じる事が出来ないとモメるとは思わなかった


(この状況で敵味方の区別も出来んのか……)

横島はふとかつての仲間達を思い出す

個性様々なメンバーだったが、過去だけで敵だと決め付ける事など誰もしなかった

それだけに魔法使い達に対する失望も大きかったのである



「待ちなさい。 人質はどうするんです!?」

立ち去ろうとする横島を呼び止めたのは葛葉刀子だった


「俺達で助けますよ。 欲を出した俺が間違ってました」

「欲……?」

横島の言葉に刀子は意味がわからないようで、不思議そうな表情で聞き返す
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