その二

「私はヴィルヘルムヨーゼフ・フォンヘルマン伯爵。 伯爵などと言ってるが没落貴族でね。 今はしがない雇われの身だよ」

この状況ではっきりと物を言う千鶴を見て、ヘルマンはにこやかな笑顔で自己紹介を始める

先程の表情とは別人のように気さくに自己紹介をして願い事がないかなどと聞くヘルマンだが、小太郎が動き出すと表情を一変させて再び戦闘を始めていた



同じ頃横島の家では、木乃香達に加え楓と古菲の二人が戻って来ている


「あれは何者でござるか?」

一緒に寮に帰宅途中だった古菲と楓もヘルマンに襲われたようだが、いち早くヘルマンが敵だと楓が気付いた為にヘルマンは戦闘すらしないまま撤退していた

二人はそのまま事態を知らせる為に横島の家に戻って来たようである


「奴は魔族だよ。 しかし狙いはわからない……」

明日菜に続き木乃香達や楓達まで狙われた結果に、横島の表情は険しかった

まさかとは思うが横島の関係者が多く狙われた以上、狙いが横島本人である可能性も否定出来ない


(もしも狙いが俺なら……)

最悪の結果を想定して対策を考えていく横島の思考を止めたのは、どこからともなく聞こえた動物のような泣き声だった


『キィッ・キィッ』

突然聞こえる不思議な泣き声に、木乃香達は元よりエヴァも探すが何も見つからない


「通信鬼」

『横島、奴は狙いをネギ少年と言ってるぞ。 真偽はわからんが、可能性は高いだろう。 それと人質も増えてるぞ』

泣き声の元は通信鬼だった

横島が通信鬼を呼び出すと土偶羅が現状の報告とヘルマンの目的を告げる


「使い魔か?」

「ああ、そんなもんだよ」

初めて見る通信鬼に目を丸くする一同をよそに、エヴァは即座に通信鬼を理解したらしい


「狙いはネギ君なん? なんでネギ君が狙われるん?」

一方通信鬼を珍しそうに見ていた木乃香は、狙いがネギなのに驚いていた

これは刹那も同じだが、二人はまた木乃香が狙われたと思っていたのだ


「考える前に人質の奪還が先だな」

突然現れた敵とその目的に困惑する一同だが、横島は考える前に明日菜達の奪還に動き出す



そして千鶴達の部屋では事態が最悪の展開を迎えていた

術を使えない小太郎はヘルマンに敗れ、千鶴と夏美が人質としてさらわれてしまう


「ネギ・スプリングフィールド君。 少々予定が狂ったが、君の生徒達を数名預かっている。 無事に返してほしくば私と一勝負してくれたまえ」

千鶴達の部屋の異変に気付いた、ネギとカモが慌てて駆け付けるがすでに遅い


「学園中央の巨木の下にあるステージで待っている。 生徒の身を案じるなら助けを請うのは控えた方が賢明だね……」

千鶴と夏美を人質に抱えたヘルマンに、ネギは何も出来ないまま見送るしかなかった

ヘルマンが去った後にネギは気絶した小太郎を起こし事情を聞き、ようやく記憶が戻った小太郎と共に人質の奪還の為にヘルマンの元に向かう

それは先生としての責任感か魔法使いとしての正義感かわからないが、ネギと小太郎は状況もわからぬままヘルマンに向かっていく事を選んでいた


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