その二

「何者だ!」

辺りには雨音と刹那の厳しい声しか聞こえなかった

周囲を歩いていた通行人もいつの間にかおらず、どうやらヘルマンが人避けの術でも使っているようである


「大人しくしてくれれば君達を傷付けるつもりはない。 ちょっとした保険が欲しいのだよ」

一見穏やかな表情で語るヘルマンだが、怪し過ぎるその言葉に刹那の警戒が緩むはずがない


(狙いはお嬢様か?)

ヘルマンの言葉など全く信じてない刹那は、また木乃香の誘拐が目的かと警戒を強める


「グルル……」

一方こちらも威嚇を止めないタマモだが、彼女の威嚇はヘルマンとは反対側の木乃香達の後ろにも向かっていた

刹那はタマモの様子から木乃香とまき絵を庇いつつ、自分達の位置を少しずつ変えていく


(敵は複数なんですね)

ヘルマン以外の敵を探しながら刹那は現状を打開する方法を考えているが、敵の人数や配置がわからない分不利だった


「タマモさん、安全な方向はわかりますか?」

一定の距離を保ったまま動かないヘルマンに決め手を欠いた刹那は、タマモが安全な方向を示すと木乃香とまき絵を連れて走り出す


「逃がさぬよ。 多少の怪我は覚悟してもらおうか」

刹那をしんがりに逃げる三人に、ヘルマンは拳に魔力を込めた一撃を放つ

威力を押さえたとはいえ木乃香達を立てなくするくらいの魔力を込めた一撃が、木乃香達に迫っていく


「チッ!!」

その時刹那は、すかさず夕凪を抜き攻撃から木乃香達を守ろうと構えるが……


パシィィィン!!


突然現れた光のドームが木乃香達三人を包んでヘルマンの攻撃を防いでいた


「えっ!?」

突然の事に刹那を含め木乃香達は、何が起きたのかわからない


「せっちゃん、指輪が光ってる……」

混乱する中で木乃香は、以前横島が渡した魔力を抑える指輪が光っているのに気付く


「コン!!」

その意味に木乃香達が気付く前に、タマモは急いで逃げるように再び安全な方向を示し声を上げる


「走って下さい!」

自分達を包む光のドームが消えないうちに刹那は安全な場所に行かねばと思い、木乃香達は再び走って逃げていく


「マジックアイテムを持っていたか、 やはり一筋縄では行かなかったな」

木乃香達に逃げられたヘルマンだが、それほど気にした様子はない

潜入しているのがバレたのは痛いが、ターゲットの一人である明日菜を捕らえている事もあり、まだ状況は自分に有利だと考えているようだ


「次に行くぞ」

結局ヘルマンは、スライム達に指示を出して木乃香達とは別の場所に向かっていく



その頃麻帆良の自宅に戻った横島は学園長に電話をしていた


『侵入者じゃと? ならばエヴァと横島君で対応を……』

『そんな甘い状況じゃないんですよ。 すぐ動ける魔法使いと戦える人材を全員至急集めて下さい』

侵入者と聞き横島とエヴァに対応を任せると言おうとした学園長を遮った横島は、出来る限りの人材を集めるように言う


『君達でも手に追えないのか!?』

横島の言葉にさすがの学園長も驚き声を荒げてしまう

京都での一件もあり、横島とエヴァで対応に困る相手など滅多にいないと考えているようだ


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