その二

そのままゆっくり近付いて来るヘルマンだが、明日菜は動く事が出来なかった

それと言うのも明日菜が気付いたのは、ヘルマンが一般人でないという事だけである

相手が魔族だとは気付いておらず、どちらかと言えば魔法使いかと考えていた

相手が危険なのは本能的に感じるが、人間の姿をした相手に自分から攻撃をしかける事をためらってしまう

一般人じゃないのは確信してはいるが、万が一ただの痴漢や誘拐犯だった場合を考えると、どうしてもためらってしまうようだった


「実戦では一瞬の迷いが致命傷になる。 今、君が迷った一瞬は致命的だったな」

気付かれたのに動けない明日菜に、ヘルマンは冷静に語りかける


その言葉にムッとした明日菜が言い返そうとした時……

突然背後からスライムが明日菜を包んでいた


「キャッ!?」

慌てて外に出ようとする明日菜だが、スライムに包まれた瞬間剣を落としていたために何も出来ないまま捕まってしまう


「もう少し人質が必要か……」

スライムに包まれたまま気絶した明日菜を見つめたヘルマンは、そのまま次の人質を求めて歩いていく



「何故、明日菜ちゃんが狙われたんだ」

同じ頃ヘルマンの動きを監視していた横島と土偶羅は、最初に明日菜が狙われた意味を考えていた

ヘルマンが使い魔で明日菜を探していたのを見ていた横島と土偶羅は、これが偶然でない事は理解しているが明日菜が狙われる理由がわからない


「どうするんだ? 人質を取られた以上ここの警備員じゃ荷が重いぞ」

考え込む横島に対して土偶羅は判断を迫る

麻帆良の魔法使いの実力では人質をとった魔族の相手は難しいだろう

それに目的が誘拐で麻帆良の外に逃げられれば、明日菜が危険だった


「あいつから目を離すな。 麻帆良の結界外に行こうとしたら、強制転移で明日菜ちゃんを救出してくれ」

横島はヘルマンの監視と最悪の場合の対処を頼むと、急いだ様子でアジトから麻帆良に戻っていく



その頃買い物を終えた木乃香達は、横島の家に帰っている途中だった

ビクッ!!

楽しげに話をしながら歩く木乃香に抱き抱えられていたタマモが、突然ピクッと動き始めて辺りをキョロキョロ見回し始める


「グルル……」

すぐに何かを警戒するように唸り声を上げたタマモに、木乃香とまき絵は驚き不思議そうに見つめる


「何か居ますか!?」

タマモの様子に即座に反応したのは刹那だった

刹那の問い掛けに答えるように頷くタマモの様子に、手に持っていた買物袋をまき絵に預けるとそのまま夕凪を出して辺りを警戒する


「せっちゃん?」

「お嬢様もまき絵さんも離れないで下さい」

突然タマモと刹那の様子が変わった事に驚く二人を庇うように、刹那は辺りを探っていく


「やれやれ、また気付かれたか。 別に君達を傷つけるつもりはない。 出来れば大人しく協力して欲しい」

木乃香達の前に現れたのは、やはりヘルマンである

明日菜に続き早々と気付かれた事にため息をはくが、その目は笑っていなかった


「グルル……」

ヘルマンの姿にタマモは、初めて見せるような険しい表情で睨みつける

普段の穏やかなタマモしか知らない木乃香とまき絵は、その表情から相手が危険だと感じていた


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