一方修行が突然中断した木乃香達は、予定より少し早いがアジトを後にして麻帆良に戻っていた

木乃香は刹那とまき絵とタマモを連れて、アジト内では手に入らない種類の調味料やお菓子などを買いに近くのスーパーに向かっており

明日菜は新聞配達のアルバイトで夕映やのどかは図書館に本を返すなど、他のメンバーもそれぞれが用事があり横島の家から出ている

それが運命か偶然かはわからないが、彼女達には危機が迫っていた



「別の結界はやはり横島忠夫の仕業か……　まあいい、今回の本命は彼ではない」

一見ヨーロッパ系の顔立ちの穏やかそうな初老の紳士の姿をしたヘルマンは、横島の家を遠くから見つめながら使い魔であるスライムの報告に意味深な笑みを浮かべる


「自ら結界の外に出てくれたのは助かった。　ハイデイライトウォーカーと横島忠夫には気をつけろ」

使い魔のスライムに他の懸案の調査を指示したヘルマンは、自分も街を歩いていく

雨がどんどん強くなる街では、まるで雨など降ってないかのように傘もささずにゆっくり歩くヘルマンの姿は少し異様である



その頃、千鶴と夏美は突然現れた少年から事情を聞いている最中だった

目を覚ました少年は突然暴れだし一悶着あったが、千鶴が上手く説得をして落ち着かせている


「小太郎君、やっぱり名前以外思い出せないの？」

「ああ、頭に霧がかかったみたいになって……」

千鶴が用意した食事にがっつく小太郎だが、どうやら記憶が混乱しているらしく名前以外は思い出せないようだ


（何か……　大事な事が……）

記憶を思い出そうと考え込む小太郎だが、やはり思い出せない

結局小太郎は、千鶴の好意によりしばらく部屋に居ることになる



その頃明日菜は、雨の中でレインコートを着て新聞配達の真っ最中だった


「こんな日は大変なのよねー」

新聞が濡れないように注意しながら走る明日菜だが、ふと視界に入った初老の男性と偶然視線が合って止まってしまう


（この人……）

何か不思議な感覚が突然明日菜の心に僅かに沸き上がる

自分を見つめたまま一歩一歩近寄る男性に明日菜は何か異様な空気を感じ周りを見るが、先程まで周りに居た通行人などが全く居ない事に気付く

明日菜は念のため新聞を片手に持ちながらも、そっとポケットから仮契約カードに手を伸ばす


「お嬢さん、済まないが一緒に来てもらいたい」

ニッコリ微笑んで語りかけるヘルマンだが、明日菜は無言のまま静かに後ろに下がっていく

相手が何か普通じゃないのはすでに感じている

経験こそ少ないがここ最近の横島達との修行の成果によって、明日菜の感性は確実に成長していた


「あんた何者！」

込み上げて来る恐怖を抑えた明日菜は相手を威嚇するように睨むが、ヘルマンの表情は変わらない


「一般人と聞いていたのだが、私に気が付くとはな」

必死に距離を取る明日菜に、ヘルマンは止まる事なく歩みよっていく

その表情こそ穏やかだが、何か危険なのは明らかだった


「アデアット！！」

相手が味方でないのを確信した明日菜は、新聞を投げ捨ててアーティファクトの剣を構える


「いい判断だ。　まだまだ未熟なようだが並の魔法使いよりも素晴らしい判断だ」

剣を構えたまま動かない明日菜をヘルマンは素直に評価した