その二

「分身の術は便利そうアルな」

横島達が話す最中で自分も戦いたくてウズウズした感じの古菲は、分身の術に興味津々だった

今までも何度か見た楓の分身の術だが、戦いの幅も広く応用範囲も広い分身の術にはいつも感心している


「確かにアレは使える術だよ。 俺の師匠だった人も使ってたしな。 極めれば神魔でも見極めるのは無理だよ」

楓の分身の術に少し懐かしさを感じた横島は、ふと老師を思い出してしまう

型破りな存在であり、あらゆる仙術までも使いこなした老師の分身の術は凄まじかった


ちなみに楓の分身の術と老師の分身の術は基本的に違う術だが、根本的には同じ術である

老師の使う分身の術は仙術であり、楓の分身の術はそれが人に伝わり長い歴史で人が使えるように変わった術だった


(普通は中学生が使える術じゃないけどな……)

楓がいったいどんな人生を歩んで来たのか、横島は少し興味が沸いている

常人を越える強さを持つ割には、魔法使いなど最近まで知らなかったと言う楓の人生も謎だった



「タマちゃん。 はい、アーンして」

横島が主力組にシュミレーションを講義している頃、全く話についていけないまき絵はタマモとおやつを食べていた


「……」

どうやらあまり美味しくなかったらしく、タマモは少し微妙な表情である


「やっぱり美味しくない? ハワイのお土産貰ったんだけど……」

どうやら自分の口にも合わなかったらしく、まき絵はあまり美味しくないのをわかっていたようだ


「きゅ~ん……」

わかっていたなら始めから言って欲しかったと思うタマモは、少し悲しそうにまき絵を見上げる


「ゴメンね~ タマちゃんも口に合わないんだ。 じゃあ次はこっちね」

ゴソゴソと次のお菓子を出すまき絵を、タマモは少し困ったように見つめた

また変な物を食べさせられるのではと、不安になったようである


「これは私が好きなお菓子だから大丈夫だよ~」

ニコニコと楽しげに差し出すお菓子を、タマモは仕方なさそうに恐る恐る食べていく


ピクッ!?

先程とは違い表情が明るくなるタマモ

元気が無く垂れていた耳がピンと張って、美味しそうに口をモグモグ動かしていた


「おっ! こっちは気に入ったみたいだね~ お菓子の好みは私と同じだね!」

美味しそうにお菓子を頬張るタマモに、まき絵は嬉しそうである


「最近の食べ物は本当に美味しいですね~」

タマモの隣で同じくお菓子に夢中になっているのはさよだった

義体を得てから食べ物を食べれるようになったさよは、自分の生きていた頃には無かった数々の食べ物に夢中になっている

なまじ太る心配がないだけに遠慮が無かった


「いいな~ さよちゃんは太らないもんね~」

さよが幽霊なのが結構どうでもいいまき絵は、素直に太らない体質が羨ましいようだ


「食べれる時に食べないと後悔しますよ! いつ食べ物が無くなるかわからないんですから!」

生前の事は相変わらず思い出せないさよだが、根本的な価値観は少し思い出したようである

まだ日本が貧しい頃に生きていただけに、食べ物に対する価値観が違うのだろう


(両手にお菓子を持って語られても説得力がないです)

主力組とまき絵達の中間で話を聞いていた夕映はさよの話に感心するが、同時に両手にお菓子を持ち口にもお菓子が入ったままで言われてもイマイチ説得力に欠けていた


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