その二

その後最終調整を終えた人造人間に、さよは自らの霊体を重ねるように合わせる


「霊体及び人造人間に異常無し、M666‐02起動します」

最近ずっと助手のように手伝って来た茶々丸が各データを報告したところで、さよの体は静かに稼動を始めていく


(子供が生まれるのを待つ親ってこんな感じなのかな)

さよが目を開けるまでほんの僅かな時間のはずだが、横島にはその僅かな時間が長く感じていた

期待と不安が入り混じった落ち着かない感じに、ふと自分の両親を思い出してしまう


(親不幸な息子だったのかもな……)

過去を走馬灯のように思い出していく横島は、自分が決していい息子ではなかったと感じる

過去を後悔しても意味は無いが、もう少し他の道もあったかと思うとどうしても考えてしまうのだ



横島と茶々丸が見守る研究室で、さよはゆっくりと目を開く


「あれ……? 全然変わってない気がするんですが……」

目を開き辺りをキョロキョロ見渡すさよだが、体を手に入れた実感がまるでない

数十年ぶりに体を持つ事でかなり期待していたさよは、幽霊の時とは全く違う感覚を想像していたようだ


「いや、成功だ。 少し体を動かしてみればわかるよ」

ちょっとボケた感じのさよの第一声に、横島は思わず笑っていた

感覚や視界などは今までと同じだと事前に説明していたのだから、やはりさよは天然なのかもしれない


「はい」

半信半疑で立ち上がったさよは、ゆっくりと歩き始めるのだが……


「キャッ!」

何も無い足元で何故かつまづいたさよは突然転んでしまう


「イタタタ…… いきなり転んじゃいました」

転んでぶつけた腕や足の痛みにさよは少し涙目になるが、少し間が開いてその涙目は驚愕に変わる


「痛みなんて初めてです……」

体を持った実感がまるでなかったさよは、転んだ痛みによりようやく自分に体があると実感していた


「いきなり転んだな~ 大丈夫か?」

転ぶはずがない場所で突然転んださよに、横島は苦笑いを浮かべて手を差し延べる


「温かい……」

差し延べられた手の温もりに、さよは無意識に涙を流していた


人の温もりとは無縁な孤独の時間を過ごして来ただけに、その温もりを感じた瞬間に何故かさよの涙は溢れ出している


「うえーん、横島さ~ん!!」

溢れてくる涙と感情の意味を解らぬまま、さよは横島に抱き着いて涙と感情をぶつけていく

そんな数十年ぶりの孤独から解放されたさよの強い感情に、横島は自分の魂が騒ぎだしているのを感じていた


(おキヌちゃんの魂が騒いでいるのか?)

自身に同化したおキヌの魂の一部が、さよの感情を受けて騒ぐのを横島は感じる

幽霊の孤独は生きてる者にはわからないと言う、おキヌの声が聞こえた気がした



「さよちゃん、君は幽霊だが限りなく自由だ。 自分の思うままに生きればいい」

泣き続けるさよを横島は優しく抱きしめて、ゆっくり語りかけていく

そんな二人を嬉しそうに見守っていた茶々丸だが、同時に僅かに羨ましそうでもあった

自由に生きるという事が難しい茶々丸は、少しさよが羨ましいと無意識に感じているようである


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