その二

それから数日後、人造人間試験体の完成がいよいよ間近に迫っていた

すでにボディ表面にはさよの顔や体が出来上がっており、今にも動き出しそうなほど素晴らしい出来である


「これが私ですか~」

そんな自らと全く同じ顔の人造人間を、さよは不思議そうに見つめていた

鏡にも写らない幽霊なだけに今まで自分の顔を見る機会はなかったようで、かなり不思議な気分のようだ


「とりあえず日常生活には問題無いはずだ。 睡眠や食事も基本的には可能だしな」

データの最終チェックをしながらさよに視線を送る横島は、喜ぶさよの姿に嬉しさと不安の入り混じった表情だった

様々な技術のテストが本来の目的である試験体は、戦闘以外もいろいろこだわりを持って開発されている

睡眠や食事もその一つで、これはマリア用の新ボディを開発するためのテストが目的であった


「睡眠や食事……」

「人造人間のベースは霊的有機物と言う物質で出来ている。 簡単に言うと霊体に近い物質だ。 だから人間の行動はほとんど出来る」

睡眠や食事に驚くさよと茶々丸に、横島は簡単に人造人間の事を説明していく

元々逆天号やヒドラと同じ系統の技術が開発の根本なのだ

細部には人間の科学やカオスの技術も入れて改良してあるが、根本はやはりアシュタロスが開発した物がそのまま使われている

食事や睡眠などの非戦闘系の技術を盛り込んだのはカオスであり、マリアのためでもあるし技術者としての理想を追求したためでもあった


「ただ出来ない事もある。 この人造人間では子供を産む事は出来ない」

少し心配そうに語る横島とは対照的に、さよと茶々丸は顔を赤らめてしまう

若くして死んださよや生まれて数年の茶々丸では、横島の不安の意味を理解出来ないらしい


「さよちゃん。 君がこの体を使う上で忘れちゃダメなのは、君が幽霊だという事だ」

その言葉にさよはキョトンとした表情をする

さよ自身幽霊なのを忘れた事などないし、忘れるはずがないと思うのだ


「限りなく人間と同じ生活が出来る体だけど、やはり人間じゃない。 好きな人が出来ても子供は産めないんだよ」

問題を理解してないさよに横島は優しく説明していく

それは人造人間であるがゆえの欠点だった

子供を産むのは世界のシステムの一貫と言っていいほどの事であり、肉体の繋がりと魂の繋がりの二つの条件が必要になる

しかし世界のシステムから離れた存在である人造人間では、子供を産む事は現時点では不可能だった

生命を創造する事はアシュタロスの技術で可能だが、人造人間と人間が子供を作る事は元々想定されてない

いやアシュタロス自身が生命を創造出来るがゆえに、人造人間の元になった兵鬼が人間と子供を作るなど考えもしなかったのだろう


「私はみんなとお話が出来て友達になれれば十分です!」

満面の笑顔で友達が出来る事で十分幸せだと語るさよ

しかし横島はさよがいつかより多くの幸せを求める気がして、少し不安だった


(完璧な事なんてないか……)

さよが自分達以外の一般人とも友達になれるようにと考えて、人造人間を与えようと考えた横島

しかしあまりに人間と変わらぬ体に、さよが生きた人としての幸せを求めそうで不安だったのだ


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