その二

一方好きな人と言われて少し考える木乃香だったが、横島以外に浮かぶ人など居るはずがない

そもそも恋愛に対しては人並みに憧れがあった木乃香だが、実際に人を愛する気持ちを知ったのは最近なのだ

幼い頃より屋敷の中からほとんど出た事が無い木乃香は、初恋すらないままだった


「うちらが子供だからあかんのかな~」

「いや、そんなつもりじゃ……」

少し寂しそうに呟く木乃香に、横島はオドオドと困ったように答える

確かに子供と言えば子供だが、大人と言えば大人とも言える年齢なのだ


「正直言うとさ…、どうしていいかわからないんだ。 俺が誰かと付き合ったのは、ルシオラとの僅かな期間だけだったしな」

少し遠い眼差しをした横島は、静かに本心を語っていく


(横島さん、やっぱりルシオラさんの事が……)

横島の話を静かに聞いていた木乃香は、ルシオラへの変わらぬ愛情を強く感じている

その深く変わらぬ愛情に、木乃香は僅かだが胸が苦しくなる気がしていた


『ヨコシマをお願いね』

木乃香はそんな胸の僅かな苦しみと共に、かつて仮契約の時に見たルシオラを思い出す

あの時のルシオラもまた、悲しみに満ちた表情をしていたのだ

そう思った木乃香は、何故か突然立ち上がり横島の前に立った


「木乃香ちゃん?」

バスタオルを巻いているとはいえ裸に近い女の子が目の前に立つ状況に、横島は固まってしまう

周りが暗いため人間の木乃香には良く見えないかもしれないが、横島には関係無いため良く見えるのだ


「なら、一から始めたらいいと思うんよ。 うちだけでなく、せっちゃん達もいつでもオッケーや!」

照れて顔を赤くした表情の木乃香は、爆弾発言をして横島を抱きしめる

一方突然大胆な行動をする木乃香に、横島は呆然としたまま胸の辺りに顔を埋める型で抱かれていた


「…………」

バスタオル越しに感じる木乃香の温もりに、横島の頭は真っ白になっている

仮に戦闘なら主神や魔王が相手でも闘い抜く精神力はある横島だが、やはり女が弱点だった

かつてのように煩悩が暴走する事は無いが、女性経験の無さから思考が止まってしまったらしい



「うわ~、木乃香ってば大胆ね!!」

顔を真っ赤にして横島と木乃香の事を覗いていたのは、レーベンスシュルト城に居る女性陣だった

前回バレた反省から、直接覗くのではなくエヴァの魔法で覗いてるようだ

水晶球に写される横島と木乃香の姿は暗くてあまり良く見えないが、明日菜達には十分刺激が強かったようである


「このちゃん凄い……」

思わず呼び方が昔に戻っているのは刹那だ

彼女もまた顔を真っ赤にしてるが、視線は二人から離れない


他にも夕映やまき絵やさよやのどかまで顔を真っ赤にして見ており、興味津々な様子で視線を離さないままだ

それどころか格闘馬鹿の異名を誇る古菲や楓まで見ているのだら、若い彼女達は総じて興味があるようだった


「お前らもいい趣味してるな」

「そう言うマスターもすぐに協力しましたね。 実は見たかったようにお見受けしますが?」

「うるさいボケロボ! お前こそ随分真剣に見てるでは無いか!」

興味津々で覗き見する明日菜達にエヴァは呆れたような視線を向けるが、茶々丸にツッコミを入れられて微妙に慌てている

エヴァは一言多い茶々丸にいつものようにネジを巻いて仕返しをするなど、彼女達の周りは賑やかになっていく

73/100ページ
スキ