その二

そして夜がふけてゆく

なんだかんだといつものように騒いだ明日菜や木乃香達は、この日はレーベンスシュルト城で眠っている


「ふ~、さすがにジャンル風呂は初めてだな」

みんなが寝静まった頃を見計らって温泉に入っているのは横島だった

満点の星空の下、星々の微かな明かりが横島を包んでいる


「眠れないのか? 木乃香ちゃん」

静かに温泉が流れる音だけが響く中、横島は目線を動かすこと無く語りかけた


「うひゃ!? なんでバレたん?」

横島を驚かそうと静かに近付いていた木乃香は、突然話し掛けられ逆に驚いてしまう


「見なくてもわかるんだよ。 匂いとか気配とか魂とかでな…」

「せっかく驚かそうと思ったのにな~」

横島の説明に残念そうな木乃香は、微かな星の明かりを頼りに近寄っていく


「混浴やね~」

少し恥ずかしそうな表情の木乃香は、横島の隣に腰を下ろす

辺りは暗くあまり見えないとはいえ恥ずかしいらしく、バスタオルで体を隠しているが…


「邪魔なら出るよ」

「あっ…」

気を効かせて風呂から出ようとした横島の手を、木乃香はとっさに握っていた


「もう少し、このまま…」

恥ずかしそうに呟く木乃香に促されるように、横島は再び温泉に入る


「男と混浴なんて止めた方がいいと思うけどな~ なんかあったら大変だぞ?」

「横島さんには修学旅行の時、全部見られてるやん。 責任とってくれるん?」

予期せぬ混浴に横島は軽い口調でやんわり注意するが、逆に木乃香に修学旅行の時の話で反撃されてしまう


「えっ!?」

「アハハッ、冗談や! 冗談! 半分くらいはな…」

驚く横島に木乃香は楽しそうに笑うが、最後は小さくボソッと呟く

どうやら半分は本気らしい


「いや~、木乃香ちゃんも人が悪いな~ ちょっと焦ったよ」

微妙に冷や汗を流す横島は、あんまり冗談に聞こえなかったようだ


「横島さん、まさか… 男が好きなん…」

「違うわ! 俺は女の子が好きや! って言うか何でそんな疑惑が出て来るんや!?」

「ハルナがな、横島さんが何もして来ん時は、そういえばええって言うとったんや~」

横島の動揺を見透かしたような木乃香は、楽しそうに横島をからかっていく

一方横島は純粋だった木乃香に、妙な知恵を吹き込んだハルナに頭痛がする思いだった


「早乙女のやつ……」

「他にもいろいろ教えてくれたえ~」

横島が木乃香にどう説明するか考えてる間に、木乃香はハルナから聞いた男を落とす方法などを語っていく

どうやら木乃香や夕映にそっち方面の知恵を授けているのは、ハルナだったらしい


「木乃香ちゃんはまだ若いんだからさ、もっと自分を大事にしてな。 そのうちもっと好きな人出来るかもしれんし…」

オドオド困ったように木乃香を説得しはじめる横島だが、決して木乃香が嫌いな訳ではない

基本的に恋愛経験がルシオラだけなので、どうしていいかわからないのだ


そして一番の問題は、横島の中にある恐怖である

かつて僅かな期間でルシオラを失った横島は、心の奥底で人を好きになる事に恐怖を抱いていた

ルシオラへの変わらぬ愛情と、新たに人を好きになる恐怖

この二つが原因で誰も横島に近づけなかったのだ


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